第44回全木木材産業振興大会第二部企画
パネルディスカッション「木のまち・木のいえ推進と木材業の将来」

1 日時
10月23日 14時30分から16時
2 趣旨

再生可能な省エネルギー資源である木材は、将来の低炭素社会、循環型社会の中で、重要な役割を果たすことが期待されている。他方、現下の木材業界を巡る状況は、木材の最も大きな利用分野である住宅建設分野で、人口減少・少子高齢化などの社会環境を背景に新築着工戸数が大きく減少を続け、厳しい状況となっている。

このような中で、木材業界が木材利用の拡大、活性化の道を探るためには、地球環境・住環境に優しい木材についての積極的な情報発信を図るとともに、木材業界としてもエンドユーザーの環境に関する期待、品質・性能への要求に応えていく必要がある。

長期優良住宅促進法において国産材・木材利用推進がうたわれ、また、「住宅・建築物への木材利用の一層の促進」に向け木材・建築両分野の産官学の関係者による「木のまち・木のいえ推進フォーラム」が活動を開始している。

これらの動きを受けて、木材業界のスローガンである「新たな木材利用の挑戦で木材産業の創造的再興」を実現するため、木材・建築の産・学の関係者により、新たな木材利用の課題を検討する。

3 パネリスト紹介
三井所 清典氏三井所 清典 (みいしょきよのり)
芝浦工業大学名誉教授
アルセッド建築研究所代表
東京建築士会会長
安藤 直人氏安藤 直人(あんどうなおと)
東京大学大学院農業生命科学研究科 教授
農林水産省林政審議会 施策部会委員
木質構造研究会 会長
青木 宏之氏青木 宏之(あおき ひろゆき)
社団法人全国中小建築工事業団体連合会 会長
一般社団法人工務店サポートセンター 理事長
国土交通省社会資本整備審議会 建築分科会委員
小野田 冨男氏小野田 冨男(おのだとみお)
(社)全国木材組合連合会全木連 副会長
岩手県木材産業協同組合 理事長
(株)オノダ代表取締役 社長
■司会
青山 佳世氏青山 佳世(あおやまかよ)
フリーアナウンサー
農林水産省林政審議会 委員
農林水産省「バイオマス・ニッポン総合戦略アドバイザリーグループ」 委員
パネリストから1 三井所 清典
地域材を活かしてすまいとまちをつくる時代の到来

地元の木を使って、その地域のすまいを作ろうという運動が全国に展開されています。地球の温暖化効果ガスを抑制しようとする環境問題の意識の高まりから、一般市民の間にも国産木材への関心が急速に広まっています。そして木材や木造建築に関する研究もさまざま行われるようになってきました。循環型の長期優良住宅やエコハウス建設のための国の政策も強力に推進されています。こういう木造建築の復権のきっかけは昭和60年頃から始まった林野庁によるモデル木造建築の推進でした。戦後植林したスギ、ヒノキ、カラマツなどが成長して、伐期を迎えることを考慮して、国民が木造建築の良さを再認識するための推進事業でした。はじめは、欧米で発達した大断面集成材による建築の調査から始まり、体育館やプール、コンサートホール、ミュージアムなど欧米式の設計と施工に挑戦しました。部材も輸入したベイマツ集成材が主体でしたが、次第に国産カラマツの集成材でもできるようになり、現在はスギの集成材もたくさん使われています。大断面構造による木造建築は新しい分野の建築として設計者の興味を引くようになりました。継ぎ手・仕口に欧米式のせん断ボルトを使わないでテンションボルトで接合する架構や、めり込み、復元する木の特質を活かした日本の木造建築らしい架構もできるようになりました。接合部や架構がすっきりとして美しい、日本化された木造建築が生まれているのです。集成材でつくるラミナーの幅もはじめは150mmが標準でしたが、山の木の成長によって、180mmや200mm幅もできるようになりました。特に梁部材の自由度が拡がり、架構の可能性が大きくなってきました。今では国産材を無垢材として使う木造建築も以前のように細い材でなく5寸角や6寸角などの太い柱を使い、存在感のある木造住宅もできるようになっています。

環境の時代となった今日、炭酸ガス発生抑制の観点から、我が国の森林の国産材には大きな期待がかかっています。木材を大いに使った長持ちする木造住宅には炭素をたくさんの固定することができます。そのためには伐採と植林のバランスを保つ森林管理が時代の要請であります。

昭和10年をピークに、その後急速に落ち込んだ木造建築の長い長い暗黒時代を漸く抜け出し、技術的にも空間的にも日本らしい木造住宅や木造建築を推進し、日本らしい、まちなみや住環境をつくることのできる時代になってきたと実感しています。

パネリストから2 安藤直人
木材産業の今後にエールを送る

木材は古くて新しい材料である。構造材として、あるいは造作材としてその利用方法は様々であり、「環境」という視点から木材はスーパースターになる可能性すら感じられる昨今である。最近では、国土交通省・林野庁が支援する「木のまち・木のいえリレーフォーラム」が各地で開催され大きな反響を呼んでいる。「木の文化」「木の技術」「木の業界」の課題の抽出、見直し、情報発信、建築と木材サイドの連携、住宅の性能向上等々である。その中で注目されるのは国産材利用に対する期待が益々高まっていること。そして地域性が重視されるようになったことである。そして、今後は住宅の長寿命化とセットで、メンテナンスやリフォーム市場の充実も望まれている。一般論ではなく、各地のマーケットを分析し対応すること、また、都市部(大消費地)に対する国産材の供給体制整備が望まれるところである。ところで、住宅は木造で、内装も木材でとアピールすることは長年にわたって繰り返されてきた。しかし、住宅・非住宅を問わず設計見積段階ではカタログから木質系建材や非木質系材料が選択され、見積書には品番と数量、単価が明記されるのが通例である。材工一式、坪単価といった商習慣が大きく変わってきており、木材を商うことの姿勢が問われている。「木材」をどう使えば効果的なのか?どこで相談できるのか?どこで買えるのか?それはいつでも買えるのか?これらは一般ユーザーは勿論のこと、設計に携わる建築士の方々にもあまり知られてはいない。また、信頼しているはずの建築士が木材に対する知識がないということも一般ユーザーは知らない。施工は容易なのか?手間はどれだけかかるのか?結果的に建築費はいくらか掛かるのか?要するに使うこと、使われること、そのためには「木材」が選ばれることをアピールすることが重要である。

「木材に対する価値観」を変えること、そして木材が活用される意味を問い直しながら「環境の時代」に対応することが望まれているわけで、IT産業より木材産業での貢献、グリーンビジネスへの夢をはせる人材の育成が最終的には大きな課題とも言えよう。

パネリストから3 青木宏之
「木のまち・木のいえ推進」と木材利用拡大
  1. 全建連を通じて地域工務店の全国組織を作り、関連業界と共に工務店業界作りを目指している。工務店は新築、増改築共、元請にならなければ元気になれない。国産材利用は工務店の得意分野である。
  2. 会員はほぼ100%木造住宅を作っている。長期優良住宅対応について、新築は国産材、技能者育成、軸組木造をテーマに、長期優良住宅認定書収得支援、現場管理システム支援、住宅履歴の保存を、工務店サポートセンターを通じて行っている。増改築については、耐震、省エネ、バリアフリー工事についての診断、改造技術支援講習を行い、工務店のもうひとつの柱になるようサポートする。軸組材のみではなく外装、内装へ木材の積極利用を考えている。
  3. ただ一言「工務店に合わせた国産材の提供」をお願いしたい。工務店の要求レベルはまちまちである。理想はJAS製品だが、現状を考えると工務店はケースバイケースで使い分けている。まともな工務店は木材業界をパートナーと思っているので、木材業界も長期優良住宅を一緒に作っていくという姿勢で木材製品を提供してほしい。
パネリストから4 小野田富雄
「木のまち・木のいえ推進」と木材利用拡大

わが国では住宅着工の大幅減少による木材需要が減少、一方で世界的には需要増の傾向といった中で、充実してきている国内森林資源を背景に国産材の利用拡大方途の道を探ることが必要と考えます。長期優良住宅の建築促進が進められており、その中には地域の材料・技術を使った風土に合った住宅づくりなども多くみられています。地域の森林機能保全とその資源活用を前提に木材業界の取組み課題等について若干の所見を提供します。

1 循環資源・国際貿易品である木材は、品質、安定供給、価格の総合評価で需給が行われており、国産材の市場復権のために着手すべきことはこの総合評価の改善を図ることが嚆矢であると考えます。
輸入木材に対抗できる国産木材
木材の生産加工等コスト低減と安定供給のため、森林地の構造改善による抜本的な素材の生産と流通の合理化そして国産材製材から木材加工までの木材生産工程と流通の改善が必要。
信頼できる木材品質の確保
住宅建築において、クレームが多く生じることが多くなってきているが、その原因に木材の品質に由来する場合も少なくないことから、それに対応して木材の品質(乾燥状態や寸法精度)の確保が必要。社会的要請でもある。瑕疵担保履行法に適切に対応するためにも、木材業界が通常流通する木材製品の品質基準を需要者目線の規格に整合し、これを遵守した木材供給を行うことでクレーム及びそのコストアップを回避できる。
2 日本の各地に残る民家は、地域の風土、自然に溶け込み、無垢の木材を巧に活かした価値の高い優れものです。しかし、国内の森林施業が長伐期化してきている中で、生産される丸太はこれまでと違って画一的ではなく量の充足で均衡できるフレキシブルで合理的な利用方途を準備する必要があります。西欧で、木材加工能力の著しい進歩発展をベースに木材の高い物理物性を活かした新たな工法が開発され、中低層の集合住宅を主流に新しい様式の本造建築が始められていますが、わが国の湿甚な気候風土に調和し、現代的で丈夫で長持ちする快適な木造建築の様々な工法の開発、具体化を進めていくことが必要と考えます。
 わが国の森林が長伐期施業等の適切な実施により活性化し、国産木材供給形態が合理化され、新しい需要によって木材生産が拡大し木材産業全体が活性化することを祈念し話題提供といたします。

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