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第53回 日本木材学会大会(福岡)メインシンポジウム
「持続可能な資源循環型社会構築への道」及びミニシンポジウムNO3
「木質資源循環社会実現のための学際的研究の役割」の概要メモ


   

 

日本木材学会では、平成15年3月23日、年次大会(福岡)において、標記シンポジウムを開催されました。
不充分な内容ですが、概要を次のとおり取りまとめましたのでお知らせいたします。

〔文責:全木連・企画部指導課・細貝〕

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「木質資源循環社会実現のための学際的研究の役割」

 

第53回 日本木材学会大会(福岡)メインシンポジウムの概要

 テーマ:持続可能な資源循環型社会構築への道

 日 時:2003年3月23日(日)13:30〜15:15
 場 所:九州産業大学1号館2階 メインシンポ(S 201 教室)

 講演者:

日本林学会 前会長  太 田 猛 彦(東大院農生命・教授)
           「森林の多面的機能と木材利用」
化学工学会 元会長  古 崎 新太郎(崇城大工・教授/ 東大名誉教授)
           「プロセスシステム的にみたエコトピア社会構築のストラテジー」
廃棄物学会 現会長  高 月  紘(京大環境保全センター・教授)
           「廃木材の循環におけるリスク評価」
司 会 : 村瀬 安英(九大院農・教授)

 

〔シンポジウム概要〕

〔司会:九州大学大学院 村 瀬 安 英 教授〕

21 世紀における人類の最大課題は「持続可能な社会の構築」であり、それは「いかに環境保全・改善を進めて、人と環境に優しい資源循環型社会を作るか」に掛かっていると言っても過言ではない。政府も平成 13 年に 21 世紀「環の国」づくり会議を開催し、「大量生産・大量消費・大量廃棄」の社会から「持続可能な簡素で質を重視する」社会への転換を図り、地球と共生する国づくりのための基本的あり方や施策を検討している。

日本木材学会では、平成 7 年の 40 周年記念大会において、「化石資源から木質資源へ」と言う「大会宣言」を発表し、その中で、資源の再生産性、資源生産時の環境保全性、建築資材や化学原料への加工・解体・廃棄・再利用における省エネルギー・低公害性において、木質資源利用システムの優位性を確認している。そして、木質資源を中心とする生物資源を基盤としたシステムへの生活方式変換の必要性と新しい価値観の創成を訴えている。

現在もこの大会宣言は、日本木材学会のホームページに掲載し、学会活動の基本となっている。本シンポジウムでは、木材学会活動の持続可能な資源循環型社会の構築に向けての更なる活性化には、木材学の枠を広げた活動が必要と考え、「日本林学会」・「化学工学会」・「廃棄物学会」に協力を仰ぎ、このメインシンポジウムではこれら3学会の代表の方に「持続可能な資源循環型社会の構築に向けての所属学会の取り組みや木質資源への期待と課題」を述べていただき、ミニシンポジウムではそれぞれ「森林環境を考慮した新たな資源利用システムの構築」・「グリーンケミストリーの潮流 ─バイオマス研究の使命─」・「木質資源循環社会実現のための学際的研究の役割」のテーマの下、具体的な議論が展開される。

「森林の多面的機能と木材利用」日本林学会 前会長  太 田 猛 彦(東大院農生命・教授)

2000年の12月に、農林水産大臣から日本学術会議に対して、「地球環境・人間生活に関わる農業及び森林の多面的な機能の評価について」の諮問があった。それに対して、学術会議は、二つのワーキンググループを作り議論し、2001年11月1日、農林水産大臣に答申を行った。この答申は林野庁とも議論を重ねながら作ったものであるが、答申の3章に森林の多面的機能があり、一番最初のタイトルに「森林の多面的な機能」とある。農業の多面的な機能には農業生産を含まないが、森林の多面的機能は林業生産を含むということで「な」が入っている。

パネル説明:50〜80年前の日本の山の荒廃の状況。岡山県の荒廃の状況、岡山県の事例。日本の森林は変わってきている。現在でこそ、国土の三分の二が森林ということになっているが、50年、100年、200年前は、荒廃地があり、豊かな森林は、国土の半分くらいまで減ったことになっている。日本の特に里山はかなり荒れていたという認識がないと、天然林が蓄積を増やしたといえない。基本的に天然林は蓄積を増やさない、増やしているように見えるのは、天然生林、天然林らしい二次林が蓄積を増やした。

どうしてこのように山が荒れたかというと、江戸のはじめから中期にかけてで、室町の終わりから江戸の200年間に日本の人口が3倍に増えた、それに合わせて山が悪くなった。江戸時代の中期以降、日本の山はかなりひどい状態だった。これは一般には認識されていない。

日本の森林の現状は、量的には回復あるいは回復の途上である。森林は何かというと、植生であり、自然環境の構成要素の一つである。弥生時代の前は、人間は森林の中に住んでいた。

環境の構成要素に人類が関わっているが、ほかの要素に比べ植生や森林というのは実は結構弱い要素である。逆に、弱いから人間が関わらないとならない。弱い要素であるが、環境の一要素であるので、地球環境のいろいろな問題に森林が関わってくる。

森林がそのような状態になるのは、でかいこと、永遠性(長い年数)があることである。

地球は46億年の間に変化している。基本的には寒冷化している。大気の組成が変わっている。大陸移動があり、大陸が分裂して生物の進化が起こった。一番重要なのは20億年より前は大気に酸素がなかったということで、二酸化酸素は最初は90%以上あったがそれがだんだんなくなり、ほとんどゼロに近づいた。このように地球大気が変化しているが、それは地球全体の相互作用で変化した。特に、酸素が大気中に出てきたのは、その前の海の中の光合成生物の進化の結果である。その「酸素が20%近くになり、紫外線を遮断し、オゾン層が形成された。オゾン層ができたことにより紫外線をカットでき、陸地の上に生物の世界が広がった。それが4億2千万年前。

従って、オゾン層の破壊は人間を含めもう一回海の中に戻らなければならなくなるので怖い。最初に出てきた植物はシダ植物でそれは石炭紀の森林である。木製のシダはまだこの時代、陸上の生物が進化して初期の頃なので、有機物を分解する微生物の進化の方がついてこれなかった。シダはリグニンが多く、それが全てどうして石炭や石油になったのか、よく分からない。現在の森林よりもCO2の固定をしていたことになる。現在の森林は石炭や石油にはならない。当時の森林は石炭や石油になった。

その後、種子植物の針葉樹がでてきて、大陸の内陸部まで森林が広がった。森林は蒸発散するので陸地の上を海面と同じように蒸発面に変えていく、蒸発面が広がったのは、針葉樹が広がった後で、地球の安定化に貢献した。その後出てきたのは裸子植物でこれにより動物との共進化、生物多様性が生まれた。最後に、人間の祖先が生まれた後で、氷河時代がきて、シベリアの草原ができた。そうすると、地質時代の森林は我々の生活や環境に役立っていることになる。

つまり、森林は約4億年をかけて、陸地の上に森林が存在することを前提に現在の地球環境が創造され、その中から人間も進化して誕生した。そこまでさかのぼらないと森林の本質が分からない。日本人がどこから来たかという説があるが、少なくとも森林の中で、縄文の1万年間は森林の中で住んでいたので森林を利用した。あるいは、農業が入ってきて、山と一体になり、文化や風土、民族性が形成された。

森林の多面的機能に関する答申の中で、もう一度、森林の原理を考えてみた。日本人の文化や民族性は永い間の森林とのかかわりの中で形成され、森林は日本人の心にも影響を及ぼしている。森林の基本的な機能は環境の要素である。その要素を我々は使って生きてきた。使うと便利であり、豊かになる。木材の生産は光合成生産物の最も効率的な利用で、その物質を森林の外に持ち出すことを弥生時代からやってきた。持ち出すことは森林との関係でトレードオフ(trade-off=一方を追求すれば他方を犠牲にせざるを得ないという二律背反の関係)の関係になる。

それをうまくやるとサステナブルな森林の管理になる。森林の多面的機能は答申では8つの機能に分けている注)。生物多様性保全機能は、遺伝子の保全、生物種の保全、生態系の保全を意味し、従来の鳥獣保護や天然記念物の保護、野生動物の保護を含む、森林の本姓である生物そのものにかかわる概念で、森林の生物多様性維持機能というのを4億年の森林の進化を含めた歴史をそういう言葉で現している。単に遺伝子の保全、生態系の保全以上の意味をこの答申では、生物多様性保全機能に含めている。このような根源的な機能は基本的には計算はできない。あるいは日本人の文化を形成した機能は計算すべきものではない。8つの機能を整理すると、そのうち大部分の機能は、少なくとも5つの機能は森林の環境保全機能である。その中の物理性の機能については、量的にも議論ができる機能である。

注:森林の多面的な機能の分類
(1) 生物多様性保全機能
(2) 地球環境保全機能
(3) 土砂災害防止機能/土壌保全機能
(4) 水源涵養機能
(5) 快適環境形成基能
(6) 保健・レクリェーション機能
(7) 文化機能
(8) 物質生産機能

しかし、もっと重要なのは、森林の多面的機能は全体としてどのような内容があるかということで、極めて多様な機能を人間に対して持っている。しかし、その機能の一つ一つはそれほど強くなく、限界がある。多くの機能を重複して発揮でき、総合的に強力なことが森林の機能の特徴である。にもかかわらず、森林を管理している以外の人間が、自分の興味を持つ機能を追及する傾向がある。林業の人は木材生産だけ考えたり、自然保護の人は自然保護だけを考える。しかし、どれも深く追求するとそんなに大きな力がない可能性がある。

従って、全体が一番うまいところにバランスをとって管理することが森林管理の極意であるが、科学的には難しい。一つ一つの機能追及は簡単であるがなかなかそうはいかない。この答申の中で一番面白いのは、いろいろ森林を考えていく上でのトピックスをあげている。その一つに現在の土地利用を大きく分けると考えると、都市と農耕地と森林に分け議論をしている。農林は一体で太陽エネルギーの下で光合成により成長し、一体となるが、現実の農と林はぜんぜん違う状況を持っている。農は、工とほとんど同じ生産をしている。化石エネルギーを使い、化学肥料を使い、水も潅漑用水はポンプを使い、機械化も森林よりはるかに進んでいる。それだけ人工エネルギーが入っているから大きな生産性があがり、都市に住んでいる人間を養っていることになる。

62億の地球の人口のほとんどは都市に住んでいる。そこに、エネルギーと物質が集中する。そういうものとそれを支える農地、それと森林を考えると、森林は現在も未だに潅漑も肥料もやらず、太陽エネルギー依存の世界。だから汚染もなく、きれいな水がでてくる。そうなると、農耕地と森林との間に、バリアを張らないとならなくなる。そういうことを考えた上で、森林と都市の共生を考えとならない。だから、森林に入るときには自動車で乗り込むのでなく、動物の人として森林に入るべきで、グリーンツーリズムというが、そういう基本の上で、都市との共生が必要ではないか。

学術会議では、循環型社会という特別委員会があり、そこで議論しているが、現在の循環型社会形成推進基本法でいわれている循環型社会のさらに先にいけないかという議論をしている。その中で現在の循環型社会よりも大きな長い視野で見た場合どうなるかということを検討している。

地球環境の要素は広がってきている。都市となると独立した環境の一要素となる。太陽エネルギーの下で、あれだけの農地で生産されるエネルギー、食料で暮らせる日本の人口は江戸時代の3千5百万人程度である。それが明治時代以降、1億2千万人までに増えたのは、当然、化石エネルギー、地下資源を使い、都市社会を作ってきた。

となると、森林が炭素を固定してそれを地下に閉じ込め、森林が大陸まで徐々に拡大し、人類の文明発祥以前の森林環境史と産業革命以降の森林環境史はどうなるかというと、森林は徐々に減少している。あるいは、人類が化石燃料やその他の地下資源を使ったものを再び地上に戻した。なぜかというと、森林は炭素を固定し、それを地下に閉じ込めていた。これが、46億年の地球史である。

地球史というのは、生物を含めた環境系が共進化していった。それが、こういう方向で、地球の地上の上の森林を広げていった。あるいは地下にものを閉じ込めていった。これは鉄まで入る。そいういものを産業革命以降、逆に戻していった。それは、地球環境系の共進化の方向と逆行する。近代文明は、大量生産・大量消費・多量廃棄につながったがそういうことをやってきた。

そうすると、今までないものがでてきたので、廃棄物や有害物が出てきた。そうなると本当の循環型社会というものを考える時に何が問題かというと、学術会議の循環型社会の最終報告を策定する段階にあるが、現代社会を都市的な社会と表現し、地球史、人類史の中で循環型を評価してみようとしている。そうすると、循環型社会の方向性を地球環境の共進化ととらえ、何とか生き延びていくためにうまく共進化させる技術をみんなで考えていかなければならない。

循環は当然であるが、省エネの方が重要でないかというのが現在の議論である。同時に、3R循環型社会は、都市の循環化しか提案されていない。当然、都市をとりまく、森林、農地等全域の循環化を考えていかなければならない。それを全体として社会の中でやっていかなければならない。

全体を都市の循環型をさらに進化させるため、循環型グリーン産業の育成と同時に、さらにそれを取り巻く、水を含めた自然の循環の健全化を含めて循環型社会として考えていかなければならない。それはライフスタイルの転換からやっていかなければならない。

経済的な問題、法的な問題も関わっていくだろう。全体としては、工業、生産では循環させていくこと、マテリアルリユース、製品のリユース、リユースということは、逆に戻せるので、材料もリユースして、例えば、自動車会社が鉄をリユースして、鉄の会社に戻すこと。マテリアルリュースが一つの循環の究極的な形である。作った製品もリユースすると消費者はレンタル利用する。工業的製品はそうなるが、バイオマスや食料を扱っているものは、これは消費者を含めた生産とのバイオマス循環を作っていかなければならない。それが農村であり、都市の消費者を結ぶものである。

循環に対し、地下資源などの利用を少なくする。エネルギーも循環するエネルギーでやっていかなければならない。

そういうものを考えた森林の管理も必要ではないかと思われる。

日本の森林の特徴は、急斜面が多いことで、イギリスのような山であれば開発されつくした可能性がある。急斜面に森林があるから残っている。残っているから環境の問題も何とかなっている。そういう国土にある森林であり、雨も多く成長もよい。

日本の森林には欧米にない、治山や砂防の分野が、森林の中にある。そういうものが一体となった管理をしなければならない。林業や生態学だけの森林管理では、日本の森林管理はできない。日本独特の森林管理、森林論を作っていくべきである。

その辺を答申には含んでいるので、後ほど見ていただきたい。

「プロセスシステム的にみたエコトピア社会構築のストラテジー」
化学工学会 元会長  古 崎 新太郎(崇城大工・教授/ 東大名誉教授)

化学工学という学問は、全体をシステム的に解析して、何らかの指針を示すことをやっているので、その意味で持続可能な循環型社会の形成に役に立てるのではないかと考え、次の学術会議の化学工学研究連絡委員会でもこのテーマで取り組む。その結果を踏まえて話したい。

エコトピアという言葉があるが、これは米国の科学者のEmest Caallenbachが1981年に将来の資源を循環しながら自然と共生するという意味でエコとユートピアのトピアを加えた名前である。カレンバッハの考えているエコトピアは、我々の考えているものと少し違っている。京都大学の内藤先生が環境調和型社会としてカレンバッハの名前を借りて、持続可能な社会、自然と共生し、人間が住みやすい美しい社会ということで発表されたものが近い考えである。

世界の人口増加は64億人の人口が今世半ばには90億に増加すると言われているが、学術会議の日本の計画という報告があり、その中で行き詰まりにきていることが指摘されている。以前は文明の進歩により新大陸が発見されたり、領土が拡張されるということがあったが、地球の限界がきて、むしろ発展ということを考えてはいけないとされている。
エコトピア社会とは、生態と資源の循環が図られ、自然と調和する美しい社会が将来いつまでも続くというイメージである。

化学工学は、19世紀の終わり頃から出現した学問で、元々は化学プラントの設計や装置、変化を解析したりするものである。それが、化学プラントのシステム、社会のシステム、地球環境など、全体を捉えて最適化する方向に来ており、対象は化学プラントに限らなくなっている。

エコトピア社会の解析にも使われ、全体をまとめるような形で関わっている。その要素としては、ものを作る動脈産業と環境技術、静脈産業など様々あるが、エコトピアを創るには統合化が必要になる。持続可能な循環型社会には環境とか安全などいろいろなキーワードがあるが、それを支える知識基盤が大切である。同時に何らかの経済的発展をする必要がある。そのようなものを結びつけて社会の貢献をすることが望ましい。

持続可能な循環型社会にはいろいろな要素があり、3R(Reduce=廃棄物の発生抑制・Reuse=再使用・Recycle=原材料としての再利用)は政府がキャッチフレーズとしており、それに伴い法制度も整備されているが、評価法というものも重要である。
ライフスタイルの転換というところに最終的に行き着くのではないか。ゼロエミッション(zero emission =固形廃棄物、排水、排気などの排出物をいっさい生み出さないこと。原材料の選択、製品の設計等の段階から、製品が廃棄物となった後の段階まで環境に配慮した活動。)や廃棄物の処理などを総合化して循環型社会を作ろうとして、環境基本法を柱として、各種のリサイクル法が既に出来上がっている。環境基本法の元となる環境基本計画は、有限な資源をなるべく長く使うことで、環境の自浄能力の範囲で生態系の機能を維持し、生物多様性がなくなることを回避しようというのが根本的な思想である。化学工学の立場からのいくつかの技術的提案をまとめると、

最初はプロセスで、物質生産の立場からの議論であるが、循環型社会形成に適応するようなプロセスのインディスケーション?を行う。それから、長寿命化、共通部材はお互いにリユースすることが必要で、循環システムとしてなるべく廃棄物を出さないようにする。そうはいっても最適化も必要で、全てを循環させることは無理なので、アセスメント(assessment=評価、事前評価。)をしっかりして、循環すべきものは循環させ、そうでない処理をした方がよいものはそのような処理をすることも必要である。その一つの手段として異業種間の循環型も重要である。

さらに、細かく説明すると、プロセスインディスケーション?、プロセス評価であるが、化学プロセス、金属材料の製造プロセスなどに共通するが、コンパクトで効率よく安全なプロセスを作らなければならない。化学産業の立場から見ると装置とか手段など、いくつかの技術は応用されているものがある。例えば、遠心力を使った重力よりも早い、超音波などを使ったものなどが必要である。マイクロリアクター(微小反応装置)という精密にコントロールされるリアクターなども手段として必要である。超臨界流体は食品関係で広がっているが、様々な分野で使われる。

もう一つの要素として、工業プロセスから見ると製品の超寿命化を図ることが必要である。それにより、材料の消費が減少するし、エネルギーも減少する。その役に立つ要素として、共通部材を使うことも必要である。

ゼロエミッションを考えた循環システムは、ものは循環して、なるべく自然のエネルギーを使い、循環できる原料を使い循環したいわけである。その意味で、物性を高度に利用することも考えなければならない。熱力学のエクセルギー(有効エネルギー)というエネルギーの質の問題もある。ある常温から見てどれだけエネルギーレベルが高いか。高圧蒸気であれば、低圧蒸気。エクセルギーが高いものから低いものへと移し、その間にエネルギーを取り出すこと、順番に順々に使い、カスケード(cascade=直列)に少しずつ使うこと。

それから、物質の物性を使い、それを共通部材として利用していくこと、最終的には廃棄になるが、エネルギー的な考察をしながら物質循環をしなければいけない。廃棄物の処理はいろいろなところで開発されているが、有機系の廃棄物もなるべく元に戻すこと、この時に、バイオプロセス(微生物機能を活用した多様な生産システム)の応用が有機系の廃棄物を減らすことに役立つ。無機系の廃棄物も有用金属の回収を行う。難処理のものもいろいろな技術で上手に処理する。単に、物質を循環するのでなく、エネルギーを考える必要がある。ポテンシャル(potential=可能性としてもっている能力。潜在的な力)とエネルギーを総合的に考える必要がある。低エネルギーで高付加価値の製品を作るなどいろいろなプロセスを考える必要がある。全体としては自然エネルギーを上手に使う。

同時に地域で循環させること、循環型社会の例では、屋久島の関係では有機系の廃棄物も上手に使う。できるところからやっていくのも一つの方法である。

異業種間で取り組むこと、ある業種の廃棄物は他の業種で使えるということがある。ハイプラと塩ビの関係では、ガス化してアンモニアエタノールを作る。これは捨てるほうがお金を出すシステムになっているので成り立っている面があるが、将来のために考える必要がある。

持続型社会を作るためには評価が重要である。特に、トータルに評価する。エネルギーの視点、その他の視点などがあるが、そこに時間の定数を入れた時間の経過を入れた評価を行うことが重要である。

評価の対象は、社会システム、政策システム、あるいは製品などで、トータルな統合的な評価を行うということが一つの結論である。

グリーンケミカルエンジニアリング(似た概念として、グリーンケミストリーgreen chemistry=化学物質に対する規制・管理が強化される中で、環境にやさしい「もの」と「ものづくり」の化学。その概念は、(1)原料については、非化石、再生可能・未利用原料などの使用技術の開発、(2)生産面では、バイオプロセス、高効率触媒、無溶媒・低ハザード溶媒といったグリーンプロセス技術の確立、(3)製品技術では、低毒性物質、非残留性物質、生分解性物質の開発など製造の上流部分から製品化に至る化学産業のグリーン化を実現するための技術を指す。)としては、プロセスの評価、循環型の社会の異業種間の循環、エネルギーを上手に利用する。そして評価を組み合わせ、全体として考えながら、循環型社会を創る。

政策にどう反映するかということで、最終的な結論に入るが、環境問題を考えると、広い立場で環境を考えるようになった。対象が拡大し、環境問題といっても結局の目的は、新しいライフスタイルの構築ということになる。考えるときにいろいろなトレードオフ(trade-off=一方を追求すれば他方を犠牲にせざるを得ないという二律背反の関係)がある。それが環境問題を難しくしている。例えば、自動車の廃棄物のNOXを減らそうとすると、酸素を減らす、逆に、カーボン粒子ができてきて別な問題が発生する。ということで、廃棄物を処理しようとすると、エコノミカルに成り立たない。

実際に総合的な評価が必要で、効率的なフレキシブルなことをやらなければならない。
そのため、「DO Tank」を提案したい。これは、実際にいろいろなことを提案してもなかなか実行に移らないので、実行を考慮した従来のシンクタンクとも違う「DO Tank」は統合して総合的に考え、実行に移す。

シンクタンクは日本でも科学技術の進行率が低く、国土開発は高いが、循環型構築しようとすると科学技術からの提案が必要で、統合的な評価を行い、社会システムを設計する。縦割り組織ではない提案をしたいということが従来のシンクタンクとは違う。

特に、社会システムを考えるようなものだと、学術会議がある程度関与する必要がある。学術会議は、人文社会系からいろいろな分野の専門家がいる。そういう立場からの提案でないといけない。ライフスタイルとか教育とかでなく、いろいろな立場から考えたDO Tankからの提案が必要である。

最後に、化学工学としては全体としての統合化のマネージメントや製造技術のグリーン化、統合的な評価を行うことなどが担える。統合的に評価しながら実際にいろいろな立場から社会をどう変えていかなければならないのか考えて提言するそういうシステムが必要でそれがDO Tankであり、実際に行動する何らかの仕組みを考えることが、私どもの研究連絡委員会の最終的な結論である。

 

「廃木材の循環におけるリスク評価」廃棄物学会 現会長  高月 紘(京都大学環境保全センター・教授)

廃棄物学会は今から10年前にできた学会で、時代の流れとして、人間がいろいろなものを作ると後の始末を適切にしないといけないということで、学会ができて会員は千名程度である。小さな学会であるが、社会ニーズは強い。

木材学会と関係の深い、研究の一部を紹介したい。

現在、日本中の廃木材は、年間5千万m3ほど発生している。理想的にはうまくリサイクルして循環していけばいいが、なかなかそうはいかない。一つの大きな問題は、木材を腐らせないように薬剤を注入した木材がたくさん排出される。これをどうやって適切に処理し、循環型社会を創っていくため特に木材の場合には重要である。そこで、この廃木材がどのようにして出てくるかというと、森林のところ、用材として様々なところから出てきてあわせると5千万 m3になる。これを資源として再利用することで約23%、燃料用が14%、若干不法投棄もあったり、多くのものがそのまま焼却処理や埋め立てされる。

薬剤の注入された廃木材は、廃木材のうちの約1%の40万m3程度であるが、量が多い。

以前は、CCA処理材が多かったが、規制により減少した。建設物は寿命が約30年位で廃棄物になってくるので、これからが正念場である。従来の廃棄物の処理は、一旦使ってそのまま廃棄していたが、次第にリサイクルが始まり、循環型ということで一回使用したものを資源として使うことが推進してきた。

現在、着目して研究していることは、発生の動態がどうなっているかを調べること、枕木がどう使われているか、パーティクルボードを造るプロセス、活性炭とか木酢液を造るとこころ、海外にあまりなく、日本独特の使われ方として家畜敷料として多く使われるが、そのリスクはどうなのかということなどを研究している。

実際にどんな状態で、廃木材、特に、薬剤が注入されたものがでてくるかということを、京都市の工場から排出される廃木材を調べている。その中で、CCA系統や有機物のいろいろな薬剤の入ったものを調べてみると、思わぬ結構高い数値がでている。この中で特に注目しているのは、CCA、クレオソート、PCPで処理されたものが環境面で注目されているが、クレオソートで処理された木材が昔から使われていたが、代表的なものとして枕木があるが、使用済みの後、園芸用や他の用途に市販されている。これが意外と厄介なものを含んだまま市販されている。この辺を注意すべきである。EUではクレオソートに入っている物質が発ガン性の関係で問題があり規制されている。PAHSという多還芳香族炭化水素は、ベンゾピレンが問題で、米国では多環芳香族の中で16種類がさらに要注意としてあげられている。そういうものがどれだけ市販されているか、周りのものに含まれているか見るため、市販されているものを園芸店などで買って調べてみると、結構高い値を示しているので要注意である。

リサイクルという面では、ガス化されることはよいのであるが、注意すべき点は注意する必要がある。一方、適切に処理するため焼却して処理しようとするが、これでも問題点がある。研究室の小さな焼却炉で燃やして解析し、薬剤処理した木材を燃えたときにどのような成分が発生し、それがどうやって除去できるのか研究している。通常の焼却炉で900℃で燃やしたり、それより低い温度で燃やしたり、野外で野焼きする温度で燃やしたりすると、制動していない焼却炉で燃やすとダイオキシン類が発生している。適切な処理をすると有害物が除去できることが判った。燃焼条件の結果、砒素とか、鉛、ダイオキシン、PAHSなどの挙動等が判った。問題点がいくつかあり、灰や燃やしたときの排ガスの処理、特に、低い温度で燃やしたときは注意が必要である。結論的には、実態調査から、いろいろな課題が見えてきた。特に、発生するところ、リサイクルするところ、燃やすところ、埋め立てるところなどで今後の課題が出てきた。

木材を保護するためにたくさん使われてきた薬品が有害性をもっている物質である。これをどうやってリスク評価するか。

先ず、廃木材をリサイクルする時にどのようなリスクが発生するか解析した。この場合、CCAやクレオソートで処理した木材を破砕するところがあるが、薬剤で処理した木材を室内で加工する工程がある。破砕する過程で粉塵が出てくるが、どの位の強度のときに要注意なのか、日本には未だ基準がないが、ヨーロッパあたりの基準と比較した研究などを行っている。

リスク評価をする場合、室内で木材を切断する過程で出てくるダストを人間がどのくらい吸引するかのリスクを評価したり、敷料を家畜に使うが、このときに問題点がないか、パーティクルボードでは、製造過程でどのようなガスが発生したり、どのような生産物が出るかを調査している。
具体的には課題を設定し、その評価を行っている。

家屋を解体したときにでてくる廃木材をシュレッダーで破砕し、乾燥し、圧縮してプレスをしてボードを造る過程では、熱がかかってくるので、その時に、入っている薬剤によっては熱により化学反応をして有害物質に変わるということが懸念される。具体的に調査をすると持ち込まれる家屋解体廃棄物のチップの中に、砒素とかクロム、銅などが入っている。それがどの位のオーダーかというと、何も混ざっていない木材と比較すると、砒素は比較的に低い濃度であるが、ペンタクロロフェノールは高い濃度で入ってきている。

ドイツではこのようなものに対し、規制を始めようとする動きがあり、基準を検討している。それと比較するとペンタクロロフェノールは、ドイツの基準ではパーティクルボードに使えないということがある。

さらに詳しく調べてみると、加圧とか加熱する段階で有害な物質に変化していくこともある。リサイクルの過程で重要なことは、薬剤で処理したものを事前に除去することが必要であるが、現実問題として、これが見極めにくく、CCAで処理したものは若干色が付いているので除去することは可能であるが、有機系の薬品で処理されたものは難しい。

どのような方法でリサイクルを検討すればよいかということになるが、その時の手段として、LCA(ライフサイクルアセスメントLife cycle assessment=個々の商品の環境に対するやさしさを評価するための手法で、原材料の採取から、製造、流通、消費、廃棄にいたるライフを通じて、その商品が環境へ及ぼす各種の負荷を定量的に分析・評価しようとするもの。)、リスクアセスメント(risk assessment=危険性評価:潜在的に起こりうる危険性の査定または評価。危険の発生確率(リスク)を科学的に評価するシステムをいう。環境保全の分野では、環境中に排出された汚染物資が人の健康に影響を及ぼす可能性があるか否かを調査し、その発生確率を定量的に予測評価)の両方の視点が必要になってくる。環境負荷という面では、その過程でどれだけの負荷が発生するか。特に二酸化炭素の負荷がどれだけかかるか、また、パーティクルボードを造る時にどれくらいのリスクが発生するかということを細かく調査し分析した。

そうすると、薬剤処理したものをそのままリサイクルに持っていた場合と一緒に混ぜた場合を比較すると、LCAの評価は、差は少なく、むしろほんのわずか選別しない方が二酸化炭素の発生量は少ない。一方、リスクアセスメントは、選別しないで混ぜたままのものは、高くなっている。
循環型社会を造っていく場合、環境負荷とリスクの評価を両方やらないと片手落ちになる。

重要なことは、廃木材をリサイクルする場合、発生の段階からどのようなものが入っているかチックするシステムを確立しないとリスクが回避できないという状況がある。
あわせて、評価の方法も検討していく必要がある。

最後に、建設リサイクル法でいろいろなリサイクル方法が提案されているが、何といっても最初の段階で薬剤処理材を含めて適切な分別処理することが非常に重要な課題である。それは、発生元で注意深く行えばある程度避けられる面もあるが、これからの技術が発展すれば化学分析で分別することも可能になろう。

ヨーロッパでは、ドイツが規制が一番厳しくなっていて、いろいろな段階のリサイクルに対し、一つ一つチックの仕組みを供給して、こういうものを分析して、こういう方法で分けていきなさい的なことが細かくある。いずれ日本にもこのようなものが入ってくるものと思われる。

チップに使うときはこういう項目をチックしなさいとか、活性炭などに使う場合は、少々ゆるくてもいいとか、そのような目安にする基準値に、今後、このようなものに対し、どのような対策をしていくかということが重要であるが、時間の関係で省略したい。

 

〔質疑〕

Q(飯塚):平成7年から木材学会で環境共生型社会、循環型社会の研究会等で取り組んでいるところであるが、太田先生に伺いたいが、木材を利用する場合、森林からの木材を適切に使うことを考えているが、何かを森林に帰すことを考えてきていない。例えば農業の場合、農地は丁寧に取り扱われる。これから長期にわたって、森林からの木材を使うためには、木材を利用する立場のものが、何かを森林に戻すことをした方がいいのか。それはどのようものが考えられるか。

A:今直ぐには答えられないが、先ほどトレードオフの関係にあることを話したが、そこをうまくやっていくこと。木材の側よりも森林をそのものを扱う側の問題。それは木材の需要に対する供給に対応しているので、そのあたりが一番難しい。その辺をうまく考えて、林野庁で新しく計画しているのは、多面的機能を発揮する上で、森林整備を行う、その整備の上でうまく出てきた木材を利用に使うという思想を入れている。入れているとなると、逆に、木材の要求に対する対応をどうするかということがある。その辺をサステナブルにやっていくことが第一であろうと思われる。

二番目は、質問と少しずれるが、木材の利用原理となったところで、木材学会で進めている木材を使うことの地球環境的な意味をもっと推し進めて行かないと循環型社会はできない。その部分では、木材をより使うということが有効である。使って、長寿命化ではないが千年持つということもあるが、千年持たせなくてもどんどん燃やしてしまって、循環して木材を使うことの有効性がむしろ出てきた。それが新しい森林の利用原理であろう。それは1990年以前はあまり考えられていなかった。木材はぬくもりがあるから使おうとかいろいろいっていたが、そうでなくて環境的に考えて使ってぐるぐる回すことの方が有効でないか。そういうことの方が重要ではないか。そういうものと、生産の方で林地を荒らさないということをそれぞれが共同でやっていくことになるのか。

 

Q:資源循環型社会は21世紀の重要なテーマであり、木材学会も積極的に取り組んでいるが、個別の学会を包含するような資源循環型社会を目指すような学問体系が必要と思いながら聞いていたが、それ辺の考えを聞きたい。

A(古崎):個々の技術を開発することは非常に大事なことで、木材学会の場合、木材の利用について、化学学会の場合、物質の生産などをやるわけであるが、それを統合して全体を見て、先ほどのライフサイクルアセスメントの話もあったが、いろいろな指標があるので、どうやったら最適の解が得られるか。ということは、いろいろなことを検討してはじめて判ることで、そのためには全体を統合する段階が必要で、それを専門的に研究することは難しいので、学術会議が、いろいろな学会からでているので、そこで意見をまとめて社会にうったえるなり、政策に反映したりすることがいいのではないかということで提案した。

A(太田):循環型社会というのは、学術会議の特別委員会の一つであるが、その中で古崎先生が言われた内容は、勉強して十分、化学工連の意見を聞いて、まとめている。古崎先生のグループが広い形で議論しているのは、他の工学系にもない。個々の学会そしては、一番広い視野でやられたのでないかと尊敬している。それを取り入れて、広めの議論ができないだとうかということが未だできていない。そういう全体の中で自分達の学会はどういう位置づけなのかということを知ることが重要である。実際は、その枠組みの中で、どういう目的でやるのかということではないか。地域循環型社会をつくる場合、林業のある場所、山村というのはモデルとしてつくりやすいと思われるので、そういうところで木材学会系、林学、森林経営、保全 一体でモデルをつくることが森林系の役割でないかと思われる。

A(高月):持続可能な社会をどうやってつくっていくかということになると、リサイクル等は重要であるが、目的ではなく手段であるので、木材の場合、短期間で建物を壊して、リサイクルして造っていくことが持続可能なのか。むしろ、せっかくある木材としてのいい性質の永く使えるということを生かした建物の造り方とか、住み方、我々のライフスタイルもそれに合わせて考えていくことを検討していくことが重要でないかと思われる。

 

〔文責:企画部指導課・細貝〕

 

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ミニシンポジウムNO3「木質資源循環社会実現のための学際的研究の役割」の概要メモ

 

 

 

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