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森林・木質資源利用先端技術推進協議会 講演会
「スギ問題真っただ中から木材利用を再考する」


   

 

森林・木質資源利用先端技術推進協議会では、平成15年5月30日、大熊幹章 東京大学名誉教授を招き「スギ問題真っただ中から木材利用を再考する」と題する講演会を開催されました。

講演では、大熊先生から、木材産業界に対し、21世紀は木材が基礎的材料として極めて重要な位置を占める可能性があること、その追い風を受けるためには、ゼロベースでの構造改革により、木材産業の革新を図る必要があるとの強いメッセージがありました。

講演の概要を次のとおり取りまとめましたのでお知らせいたします。

〔文責:全木連・企画部指導課・細貝〕

日  時  平成15年5月30日(金)13:30〜17:00
場  所  木材会館6階会議室
演  題  「スギ問題真っただ中から木材利用を再考する」
講  師  大熊幹章 東京大学名誉教授、前宮崎県木材利用技術センター所長

 

1.はじめに

平成9年3月に東京大学を定年退職し、同年4月に九州大学に配置転換、3年間勤めたのち平成12年3月に定年により退官。その後、1年間、宮崎県林務部顧問として、宮崎県木材利用技術センターの設立準備に関与し、平成13年4月に同センター設立と同時に所長を拝命して2年間所長を勤めた。それ以前は、九州や宮崎県とは関わりがなかったが6年間に渡って九州やスギ問題に関係するところとなった。

宮崎県にスギ材利用に関わる試験機関を新設する構想は、平成5年頃から始まったが最初から委員長などとして関わりをもった。なお、それよりも前、平成7年に秋田県に木材に関する研究機関(秋田県立大学 木材高度加工研究所)が開設されたが、当時、京都大学教授であった佐々木光先生とご一緒にその設立準備の作業に参加させていただいた。また、富山県の木材試験場再編整備の構想が進行しており、これも実現の方向にある。

現在、森林の果たす役割の重要性が広く認識されるようになってきたが、森林から木材を伐採して製品作りをすることに対しては、森林破壊につながるとして一般の方々からはなかないか理解を得られない状況にある。このような時に、樹木を伐採し、その利用を研究する試験機関を新設するためには多額の県費、国費を使うことに対する反発は大きなものがあるであろう。秋田県では72億円、宮崎県では36億円程度が新設経費として投入されているはずである。実際に役立つ成果を早急に上げて、試験機関設立の意義を明確に示さねばならないという厳しい状況にある。その基本として木材利用を推進する意義、他工業に比べて生物材料である木材利用の優位性を明らかにし、国民に強くアピールしてゆかなければならない。

宮崎県は、平成3年からスギ材生産日本一を11年間続け、日本の全スギ生産(丸太)の13%を占めている。宮崎県の場合、林道密度は36m/haと国内の中では極めて高いレベルにあり、大型林業機械の導入についても北海道に次いで高い位置を占めている。スギ材の平均年成長量(MAI−mean annual increment)は320万m3と大きく、現在、年間の伐採量は90〜95万m3程度であり、成長量の三分の一以下の状況である。何とかして生産されるスギ材の受け皿を確立しなければ林業を、そして山を守っていけないという切羽詰った状況にある。

このような情勢の下で、宮崎県ではスギ材の利用について種々の行政的施策を進めてきている。例えば、大型木造ドームや木橋の建設、乾燥機の導入に対する助成、種々の問題を含んでいて先行き不透明であるが、中国へのスギ丸太輸出の具体化、等々の施策を進めている。公共の建物は特別な事情が無い限り木造にすること(木造を採用しない場合は県議会の委員会(副知事が委員長)で説明をしなければならない。)など、スギ材の需要拡大について精力的に取組んでいるところである。このような県の行政の方向を技術的に支え、周辺企業の技術力の向上、新製品開発の支援など新設の木材利用技術センターに課せられた使命は大きい。

2.地球環境保全と木材利用推進の整合性

(1)木材利用推進の意義を国民に強くアピールすること

木材利用の意義について、「地球環境保全と木材利用推進の整合性」をデータで国民に示すべきである。昨今では、森林の環境保全機能に大きな関心が寄せられているが、物質資源生産の場としての森林の重要性を強く認識し、その意義を国民にアピールすべきである。すなわち、

生物資源である木材は、21世紀を支える基盤的材料になる
その生産と利用は、人類生存の基本としての取り扱いを要す

このことを主張したい。現在の木材をめぐる厳しい状況は上記の事項と大きく乖離しているが、生物資源である木材が、下図のイラストで示されるように、再生可能な持続的資源であること、製造・加工・解体・廃棄の過程において地球環境への負荷が極めて小さいことから、21世紀においては社会を構成する基礎的資源になることは明白な事実でありこのことを木材利用を進める基本におきたい。

宮崎県や秋田県が新しくスギ研究所を設立したことは、将来を見越して先行投資したという気持ちで仕事を進めていくほかない。生物資源としての木材の重要性は、以前に全木連がある報告書の中で用いた次の図で結論的に示されよう。

 
木材は再生可能な
持続的資源
  木材利用は環境にやさしい
(地球環境へ与える負荷が小さい)

図1 生物資源としての木材の優位性

 

(2)木材による循環型社会の形成

図2を見ていただきたい。木材による循環型社会の形成ということで、森林を中心にした循環図が描かれている。森林が一番上にあり、そこから左周りで、木材資源が生産され、その木材資源を使って材料づくりがなされ、その材料を使って、例えば、木造住宅が造られ、解体され、解体材は、リサイクル利用、リユース利用される。この部分を小さなサイクルとすると考える。さらに、解体材等が廃棄され、それが生分解され、燃焼してエネルギーが取り出され、いずれにせよCO2が大気中に放出される。樹木がこのCO2をまた吸収固定して、森林が成長していく。この全体が大きなサイクルを造っている。

 


図5 木材の生産と利用のサイクル
(大きなサイクルと小さなサイクル)

 

要するに、森林があり、木材資源が得られ、これを原料として木質系の材料を生産し、それにより生活に必要な資材、住宅を確保する。使用後それらは解体され、CO2となってまた森林に戻っていくということ、このように木材の生産と利用は大きなサイクルを造っている。このサイクルには、太陽エネルギー、樹木の生命力というような人間の力が及ばない壮大な事象を含んでいる。生物生産という大きなサイクルの中に、(材料製造)・リサイクル利用という小さなサイクルがあるという図である。

この図を鉄やプラスチックで描くことはできない。(製造や)リサイクルに関わる小さなサイクルは、アルミ缶やペットボトルなどで描くことはできるが、生物資源として生命力によりCO2を吸収固定する森林の成長・木材生産に関わる大きなサイクルは外の資源では描けない

石油などの化石資源も地球の中で作られたもので、時間を大きくとれば同じではないかということを言う人がいるが、それはスケールが違う。この前、東大の飯山先生の話の中に、地球の成分と気候変動が大量の動植物を繁殖させ、これに地球の中の熱、地殻の変動による地球規模の極めて大きなエネルギーが作用して、長い長い時間をかけて化石資源が作り上げられてきたという話があったが、我々の生活という単位で考えるとやはりスケールが根本的に異なる。

このような資源は木材以外に考えられない。そこに、生物資源である木材の重要性、木材を使っていく意義を強く感じる。そのことを考えると、木材を有効的に使い、廃棄物を少なくして、廃棄物についてはカスケード的に段階的に使うことが技術開発の上からも求められ、重要である。

 

(3)木材の生産と利用過程における炭素ストックの変化

次の図3は、横軸に年数をとり、縦軸に1haを単位にした炭素ストックの量をとったものである。この図は一つのストーリーを設定して、1haの土地に植えたスギのCO2ストック量(炭素量に換算して示す)の変化を表している。すなわち、0年に1haの林地に植えたスギの苗はCO2を吸収固定し、年々成長していく。50年後に伐採するが、一部林地に自然還元される部分もあるが、半分程度は工場で製材され柱や梁などの材料に加工される。これらの製材品で住宅が組み立てられるが、住宅が使われている間、木材が成長する間にストックした炭素が材の中に固定されていることになる。33年後にこの住宅を解体(木を植えてから83年後)し、その解体材でボードなどにリサイクル加工し、そのボードを家具などに使った場合、さらに17年間、炭素が固定される。17年後にその家具を廃棄した場合、その時点でストックされた炭素はゼロになる。

この図で、面白いのは、前半の50年間は、林業生産を表しており、林地において光合成により樹木にCO2が固定される状況が示されている。50年後に伐採して、住宅や家具にカスケード的に使うがこの過程はまさに木材利用を表している。このように林業と林産、川上と川下を一つの図で表せることは大変興味深い。

この資源利用システムでは、住宅や家具の中に炭素がストックされているが、このことから街の中にもう一つの森林が存在しているとも言えよう。私の計算では、炭素のストック量の合計は我が国の森林にストックされている炭素量の18%にも相当する。

この図では、50年後に木材を伐採するが、1haの伐採跡地(通常は別の林地)に再植林すれば、そこから再び炭素ストック曲線はスタートするので、右方へ限りなく繰り返し続いていくことになる。このことは、資源の持続性を表している。全地球上における炭素ストックの総和は大変な量になる。そしてこのシステムにより、我々は生活に必要な材料を確保しているのである。ほかの化石資源や鉱物資源では考えられないことであり、この優位性を強く主張したい。

エネルギーとか食料の必要性については、国民の皆さんは十分に理解しているが、材料の重要性についてはなかなか思い至らない。住宅に住んでいるにも関わらずこの家が材料によって作られていることに思い至らない。木を使うことは森林破壊につながるから木を使うのを止めようという主張があるが、それなら木材以外の他材料で居住空間を造らなければならない。他材料を使う場合、木材を使用する場合に比べて環境への負荷が大きくならないか、資源の持続性はどうか、十分に検討しなければならない.材料の選択の基準として、環境問題、資源問題が大きくクローズアップされてきている中で、木材を使う意義をしっかりと認識してもらいたい。


図3 炭素ストックの状態と変化

 

(4)木質材料の製造・加工時に放出される炭素放出量

表1は、各種材料製造時における消費エネルギーと炭素放出量の原単位を示したものである.この表の値は、製造時の直接エネルギーのみを積み上げ方式によって算出したもので、間接エネルギーが入っていないので不完全であるが、他の資源との比較において重要な意味を持つと考える。

図4は、住宅1棟(136m2)を構成する主要材料の製造時炭素放出量の構造別比較であり、木材、鋼材、コンクリートについて、国土交通省の多くのデータから原単位を求め、エネルギー消費の原単位をかけてグラフ化したものである。図から看取されるように、木造住宅を1棟を建設するに要する3つの主材料を製造する際に放出される炭素量を1とすると、RC造では4.24倍、鉄骨造では2.87倍となる。このような数値に基づき、地球環境保全に対する木材利用の意義を主張したい所である。

循環型社会の形成の重要性がいろいろと主張されているが、私は生物資源である木材を使うシステムで生活していくことにより、循環型社会が形成されると思っている。勿論、木材だけということにはならないが、木材は今後大きな役割を果たすことになる。

アルミ缶をリサイクルするということは意義のあることであるが、資源の新しい形成とはまったく関係ない。また、ペットボトルのリサイクル利用では、小さなサイクルは描けるが、リサイクルを進めることにより石油資源を再生していくことにはつながらず、資源の枯渇をスローダウンしているに過ぎない。

CO2の吸収・固定に関わる森林の大切さはよく理解されるようになってきているが、木材利用の推進も同じように重要性であることを一般の方々に理解してもらいたい。

 

表1 各種材料製造時における消費エネルギーと炭素放出量

材料 製造時消費エネルギー 製造時炭素放出量
MJ/t MJ/m3 kg/t kg/m3
天然乾燥製材
(比重:0.50)
1,540 770 32 16
人工乾燥製材
(比重:0.50)
6,420 3,210 201 100
合板
(比重:0.50)
12,580 6,910 289 156
パーティクルボード
(比重:0.65)
16,320 10,610 345 224
鋼材 35,000
[25,200*1]
266,000
[577,500*1]
700
[504*1]
5,320
[3,830*1]
アルミニュウム 435,000
[228,500*2]
1,100,000
[577,500*2]
8,700
[4,570*2]
22,000
[11,550*2]
コンクリート 2,000 4,800 50 120

*1:回収率35%、回収・再加工エネルギーは鉄鉱石からの20%と仮定した場合

*2:同50%、必要エネルギーはボーキサイトからの5%と仮定した場合


図4 住宅1棟を構成する主要材料の製造時炭素放出量の構造別比較

 

3.国産材・スギ材利用の問題点

国産材・スギ材の利用がなかなか進展して行かない。これは経済の停滞による落ち込みが大きな理由であろうが、それを加味しても国産材利用、製材利用が進まないことには根本的な理由が存在するものと考える。

杉山英男先生が山林という雑誌にある方の講演を引用され、「国産材=絶滅品種」、「国産材利用=絶滅業種」と書かれていた。また、第2次大戦末期の沖縄戦の話があり、何故無駄な戦いをしたかということから、在来軸組構法、さらには国産材は外材や2×4工法との競合をあきらめるべきとの主張をされているような印象を受けた。その後、杉山先生にその趣旨をお聞きすると、そういうことではなく、ゼロからのスタートが必要で、大改革が必要であり、全てを無にしてそこから新たに木材利用、国産材林業のあり方をスタートすべきでないかということを言われていることが理解できた。構造改革がもっとも必要であり、そのことなくして再生はあり得ないということであり、私も全く同感である。

国産材・スギ材利用の問題点については、論議は尽くされた感があるが、あえて次の5つの事項を挙げておきたい。

(1) 国産材を欠陥商品として造り、売り続けた製材加工、木材取引の仕組みが慣行的に存在し、そこに商売の旨みがあった(ビショビショの生材、丸身材、部切れ材−水と空気を売っていた)。

(2) 無節、木理、材色など木材の美しさ、見た目、化粧性を重視する価値観が厳然として存在し、木材を工業材料として(性能を重視して)評価するシステムへの切り替えが難しい

(3) 原木・製品市場、競りと入札、複雑な流通経路、補助金構造等々、木材を囲む従来からの仕組みを捨てきれず、その合理化、近代化に踏み切れない。特に必要なとき、必要なものが、必要な量、適正で安定した価格で手に入れることが出来るよう流通の合理化、IT化の実現が緊急の課題である。

国産材利用がこのような条件の上に成り立っていた面があり、本当の意味での合理化・近代化に踏み切れない。正に構造改革が必要であり、それは、最初に述べたように、21世紀は、生物資源である木材が無ければ人間の生活システムが組み立てられないこと、従って、木材が社会を組み立てる基盤的な材料として機能しはじめることが強く求められることから、それを実現するためにどうしても必要な、避けて通れない方向であると考える。
それをやらざるを得ないのではないか。

(4) Engineeringの土俵に載せにくいスギの材質問題

木材の性能を重視して木材を使っていくことの切り替えが難しいということがあげられよう。例えば、南九州のスギ、オビスギについては、成長がよく、年輪幅が大きいものであるから材質に問題がある。図6は、数多くの集成材用ラミナの曲げヤング係数をグレーデングマシンを使って測定したものであるが、ヤング係数の変動が大変大きいことが分かる。工業材料として使っていくことが極めて難しい。これは心材含水率が高く、ヤング係数そのものの値が低いこととも関係するが、さらに釘保持力、めり込みも大きいという事実がある。

この材を如何に使うかが大きな課題である。見方を変えれば、この材は逆に軽量で、耐熱性に富み、やわらかくて可能性があるという利点が出てくる。この特性を活かすことにより他材と差別化が図れないかと考えている。

 (5)パートナーである在来軸組工法が多くの問題を含んでいる。

もう一つ、スギ材利用のパートナーである在来軸組構法が多くの問題を含んでいるということがある。プレカット加工や釘・ボルト接合を多用する近代化された軸組工法はスギ材の材質になじまない。スギ材を考えた場合、スギ材にあった工法的な改変が必要ではないかと思われる。例えば、主要構造となる柱・梁・桁材は中断面であり、2×4材に比べると断面が大きく乾燥しにくい。部材内部に含水率傾斜が無く、全体で15%程度の平均含水率になっている、いわゆる高度乾燥材を目指したいが、今の軸組材では、乾燥コストが高くなり、さらに割れ・狂いを発生しやすい。

また、材質のバラツキが大きいので、ヤング率を連続的に一つ一つ測定するしかない。自動的にラベリングされ、自動的に分類され、そのラベルによって使い分けをしていくシステムをつくることにより、効率的な歩留まりの高いスギ材の利用ができるのではないか。そのようなことを実現する部材・構造として在来軸組構法は適当でない面がある。スギ材の合理的利用を考えた場合、工法の改変までやらざるを得ないのではないか。

そして、解体材のボード等へのリサイクル利用や部材表面を削って使うなどのリユース利用を進めねばならない。カスケード的利用も進めたい。木材の物理的利用の中心は製材であるが、これを再利用しやすい工法的な措置が必要ではなかろうか。

 


図6 宮崎県県南産スギMSR ラミナの曲げヤング係数の分布

 

4.どうすべきかスギ利用の促進

(1) Engineeringの推進 乾燥、等親区分、規格化、スパン表等々

(2)スギ材質の特徴(現基準では=欠点)を最大限に生かす技術開発、欠点を売り物に変換、軽量性、断熱性、曲げやすさ、柔らかさ、めり込み性、等々

すでに述べたところであるが、エンジリアリングの推進が不可欠である。その方向としてスギ材質の特徴を最大限に活かすことを考慮しなければならない。例えば、オビスギはヤング率が低く、構造材としては極めて不利である。ところが比重が低いということは軽量であり、家全体が軽くなり、構造的に有利である。断熱性がある。ヤング率が低いということは曲げやすく、粘り強いということがあるので、その辺を最大限に活かすこと。柔らかいということはめり込みやすいということにつながる。普通、ボルトで接合ではボルト径よりも先穴径を大きくするがこのためにどうしてもガタが出るが、スギ材の場合、めり込んでいくので、ボルトの先穴を大きくしないでガタのない接合が実現しよう。

また、宮崎県ではスギを使って、接着剤を使わないで木製の深底トレーを作り、商品化を試みている。これは2枚の単板を押し付けることによるめり込みによって接合力を生じせしめている。この深底トレーは比重の高い秋田のスギでは製造できない

(3)生産(林業)と利用(林産)の一体化、運命共同体

林業と林産業は運命共同体であることをしっかり認識したい。宮崎県では中国へスギ丸太を輸出することを進めようとしているが、この話が何故出てきたのか。一つの理由として、製材サイドが素材生産業・林業に対し丸太価格を過度に買いたたき、そのことにより林業生産が成り立たなくなっていったことが挙げられよう。宮崎県は林業県であり、県内だけで全生産量を消費することができないので東京圏をはじめ、消費圏に丸太を売らなければならない。それが東京だけでなく中国という大マーケットがあるということになった。丸太が中国へ行くことはまさに林業と林産業のくいちがいを意味する。また、中国に多量の原木がいってしまうと、製材業は原木の確保ができなくなる恐れがある。製材や木材加工が中国で行われ、スギが製品になって日本へUターンしてくるブーメラン現象が最も恐ろしい

一方、従来、スギ材問題=国産材問題=国内問題という考えで進められてきたが、このスギ丸太の中国輸出の提案は、グローバルな視点を与えてくれたともいえる。青森県、秋田県でも同じようなことが考えられているようであるが、一番の問題は、スギ丸太が加工されて、製品化され日本に戻ってくることである。もう一つは原木の価格であり、中国がどのように示していくか、そのやり取りがどうなるかということが今後注目される。

(4)地域に密着した生産と利用システムの構築

今後の木材加工(林業を含めて)を考えると、ヨーロッパやアメリカに見られるように産業の規模を大型化し、寡占化した中でしか木材を使うことが成り立たないのかもしれないということがある。しかし、日本では大規模化した産業の形と地域に密着した小回りのきく製材加工に二極化していくことが最も妥当な方向と考えられる。この二つがどのように分野を分け合って両立していくか、その比率がどうなるか(片方だけになってしまうのか)、今後の展開が注目される。大規模化、寡占化の方向の中でなければ真の構造改革は進まないということも考えられよう。しかし、同時に地域に密着した小回りのきく生産規模、生産のやり方も存在すると思われる。

(5)流通の合理化、IT化

流通の合理化、IT化ということは、緊急の課題であり、技術開発の問題もあるが、構造改革の中心はやはりここにあるのではないかと思われる。ロットの巨大化、品揃えを実現する必要があり、それはコンピュータを使った情報化によってのみ可能となるものである。従来の化粧材や造作材中心の流通では、現物を見なければ評価が困難であったが、一般材、構造材等については、材質の評価を数値化することが容易であるのでIT化は進行するであろう。また、この方向でなければ他工業材料と競争できない。現状では、必要な製品とつくられている製品のミスマッチがある。何が今世の中から必要とされている、正しい情報をつかむとともに、必要とされる製品を瞬時に提供できる体制を整備することが求められている。そのためには流通の合理化は緊急の課題である。

 

5.スギ材利用の基本一結論に代えて

(1)宮崎県・南九州の強さ  −そこにスギがあること

(2)「木の美しさを生かすか、木の性能を生かすか」、2つの方向を明確に分離して進む。そして後者、即ち、スギを一般材として設計にのせて(鉄のように)使う技術開発に集中すべき

(3)環境問題、資源問題の顕在化−生物資源、即ち木材時代の到来必至、「化石資源から木質資源へ」の意識を強く持って進みたい。

(4)スギ造林木の生産と利用システムが動き出すことこそ循環型社会の実現

(5)人間を中心におく社会、新しい価値観の芽生え

(6)新しい発想によるスギ材の特徴(現存の基準では欠点と見なされる)を逆に生かす技術開発こそ最も望まれる方向

(7)「何でもスギ」ではなく、適材適所に使う。鉄とのhybrid構造も考える。

(8)流通の合理化、IT化、規格化の推進は基本となる重要かつ緊急の課題

(9)スギ材をグローバルに眺めることも必要か。熱帯早生樹造林木との競合

(10)行政との連携を緊密に→研究成果、研究者の考えを施策に反映させたい。

 

最後に、資料の囲んである部分は、昨年、11月に「林業技術」誌に書いた木の文化についてのコラムである。私の木材利用に対する考え方の基本である。

木材は生物資源として2I世紀を支える基盤的材料になる運命に置かれていると思う。この場合、「木材の美しさ」「木の文化」などというきれいごとでは済まされない。もっと必死な、人類生存の基本となる取り扱いが必須であると考えるのである。五重の塔よりも庶民の住宅を、文化論よりも技術論を。

 

〔コメント〕

大熊先生は、木材加工分野の権威者として、木材産業界とのつながりも強く、今回の講演内容は、木材産業界に対し、21世紀は木材が基礎的材料として極めて重要な位置を占める可能性があること、その追い風を受けるためには、ゼロベースでの構造改革により、木材産業の革新を図る必要があるとの強いメッセージである。

 大熊幹章・東京大学名誉教授は、平成12年秋に林産学の分野において、生物資源としての木材を人間生活に必須の資源として捕らえ、資源から材料へ効率的に変換するための技術開発、木質材料の建築への適用問題、そして地球環境保全と木材利用の整合性等に関する研究を行い、木質資源の有効利用を促進することに貢献する多くの成果をあげたとして褒章受章者となっている。

 

 

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