2006/4/14

 

違法伐採問題を考える国際セミナー

「極東ロシアの森林とわが国の木材貿易」

 

日時:平成1814()

場所:虎ノ門パストラル 新館5階「ミモザ」

主催:()全国木材組合連合会

後援:林野庁、国際環境NGO FoEジャパン、()地球・人間環境フォーラム

参加者:約120名

司会柿澤宏昭 北海道大学助教授 

講師:アレキサンダー S. シェインガウス  ロシア極東経済研究所教授

アナトリー V. レベデフ   BROC議長

進行:(社)全国木材組合連合会 角谷常務理事

(講師の発表は、英語で行われ逐次通訳された)

発言要旨

 角谷 それでは「極東ロシアの森林とわが国の木材貿易」という表題でセミナーを開催いたしたいと存じます。このセミナーは我々全国木材組合連合会が主催いたしまして、林野庁、国際環境NGO FoEジャパン、(財)地球・人間環境フォーラムの後援をいただきながら、本日ここに開催する運びになりました。私、全国木材組合連合会の角谷と申します。私のほうから、しばらくこの会の趣旨とご講演をいただきます先生方のご紹介をさせていただきたいと思います。

 極東ロシアの森林といえば、我が国に北洋材という名前でたくさんの木材が輸入されてございます。今やもう我が国の木材の需給の中で欠かすことのできない比率を持った輸入木材ということになるわけでございます。一方、我が国政府は、皆さんご承知のとおり、平成18年度から新たな措置としてグリーン購入法による政府調達の新しい政策を発表いたしました。それは違法伐採材を排除して、政府機関は合法な木材を使いましょうということを推奨するものでございます。こうした新しい政策の中で、北洋材が今後どのように取り扱われていくのか、あるいはどのようにすれば北洋材が皆さんに受け入れられるのか、この辺をもっともっと真剣に考えるべきではないかということからこのシンポジウムを企画した次第でございます。

 お越しの皆さんの中には、直接北洋材にご関係のある方もたくさんいらっしゃると思います。きょうは講師としてハバロフスクのロシア極東経済研究所の教授でありますDr.アレキサンダーS.シェインガウスさんに問題点のあらましをご紹介いただくことになっております。さらに、ウラジオストクベースでご活躍の、ジャーナリストであり、NGOのBROCの議長でもあるアナトリーV.レベデフさんにもお越しいただき、生々しい現場のお話などをお聞きしたいと思っております。そして司会を務めていただきますのは、北海道大学の柿澤宏昭先生でございます。先生はこの北洋材、シベリア極東地域の森林林業に関して非常に造詣が深く、長い間ご研究をなさっておられる方でございます。

 それではセミナーを開催させていただきます。まず柿澤先生、進行役をよろしくお願いいたしたいと思います。ちょっとお待ちいただいて、時間割をご報告しておきます。14時くらいからシェインガウス先生の講演が約1時間。これは通訳を挟んでおりますので、実質的にはもう少し短くなるかと思います。15時には10分間の休憩を挟ませていただきます。それ以降、レベデフさんによる講演ということになります。その後、質疑応答の時間を若干設けておりますので、よろしくお願いいたしたいと思います。

 なお、きょう通訳をやっていただきますのはFoEジャパンの野口さんと佐々木さんでございます。ご講演は英語でやっていただき、日本語に通訳をいたしますが、質問その他の時間では、英語でも日本語でもロシア語でも結構だそうでございますので、どうぞご自由にご質問をお願いいたしたいと思います。

 どうもお待たせしました。先生、よろしくお願いします。

 

 柿澤 ただいまご紹介にあずかりました北大の柿澤でございます。きょうは司会ということで、務めさせていただきます。どうかよろしくお願いいたします。

 最初に私のほうからイントロダクションをするということでございますので、あちらのほうに移って、若干お話をさせていただきます。

 既にロシア材のことはご存じの方が多いかと思いますが、私のほうから簡単に、お2人が極東の地域の森林資源、あるいは木材産業、そういったこと、あるいは違法伐採の問題をお話しされる前に全体的な概況ということで、若干話題提供をさせていただきたいと思います。

 まず世界の中でのロシアの森林、林業の位置というのを簡単にお話しします。世界の森林面積の中の大体2割強をロシアの森林を占めています。蓄積もほぼ同じ量、それから特にやはり北方林ということで、ロシアは針葉樹が多いです。世界の針葉樹の蓄積の約6割がロシアにあります。そういう面で、ロシアの森林資源というのは、これからの世界的な木材資源を考えた場合に極めて重要な資源だということが言えると思います。北方林と言われている地域の多くは、既にいろいろな形で開発をされている。その中で、北方林、針葉樹林としては残された唯一の膨大な森林の資源ということになるかと思います。そういう面で、この資源を有効、かつ大事に使っていくということが重要になってきます。それから木材資源ということだけではなくて、最近環境の面からもいろいろと、ロシアのことに関しては注目されています。京都議定書の関係で、ロシアの森林に関しては、要するに二酸化炭素、あるいは温暖化ガスの吸収源、あるいはそのシンクとしての役割というものがかなり注目されていて、日本も含めて、かなりの研究がロシアを対象にして行われています。北方林の炭酸ガス固定量の大体8割近くを占めている、要するに寒い地域なのでなかなか分解が進まないので、それだけたくさん温暖化ガスを吸収、固定化するということになっているんですけれども、そういった面で、ここで北方林の果たす役割が非常に注目をされています。そういうことですので、1つは森林資源ということだけではなくて、京都議定書にかかわるような、温暖化ガスの動態ということでもロシアの森林の保全ということが注目をされているということです。

 もう1つは、ちょっと最近いろいろなところでお話を伺っている方も多いかと思うのですけれども、オホーツク海ですとか北太平洋の海というのは世界の中でもかなり豊かな海で、その豊かさというのは、どうもアムール川からのいろいろな物質の供給に依存をしているのではないかということが言われています。今私自身もかかわって、アムール川の流域の変動というのが、どういう形で北太平洋の生物生産に影響を及ぼしているんだろうかという研究プロジェクトみたいなものが動き始めてきていまして、そういった面で、北太平洋の魚つき林といった名称が言われるような、そういった意味での重要性というのも、ここの森林は持っているということが言われ始めてきています。ですからそういう面で、単に木材資源ということだけではなくて、環境にかかわってもいろいろな面からこのロシアの森林というものが注目をされてきています。

 次に国際的に違法伐採への対策が求められていることということで、これについても、皆さん既にサミットの中でも違法伐採対策というものが正式な議題に取り上げられて、その中で違法伐採対策を行う。日本もきちんと、その対策を行うということを国際的に約束をしているということがあるというのは既にご存じかと思います。国連の中でも、森林にかかわる国際的な枠組み、例えば森林条約なんかをこれからどうしようかという国際的な話し合いが進んでいるんですけれども、先ごろUNFF、国連森林フォーラムというものの6回目の会合があったんですけれども、ここでもいろいろな対策をこれから考えていこうという中に、違法伐採対策の強化ということが合意されています。持続的な森林管理ということが最終的な目標になっているんですけれども、やはり違法伐採対策というのが一番見えやすくて、対策がとりやすいということで、やはりこの違法伐採対策というのが、国際的ないろいろな森林保全の取り組みの中でも注目をされ、何らかの対策をとる1つの焦点になっているということが言えると思います。

 その中で、ロシアというのが問題のある国の1つとして、いろいろなところで取り上げられてきているという事実があります。この内容については、実際に本当にロシアに違法伐採がどれだけあるのかということに関してはいろいろと議論がありまして、この後の先生方の講演でもそこの中には触れられると思うんですけれども。それは置いておいても、国際的に、例えばNGOのいろいろなレポート何かでも、やはりロシアというものが何らかの形で問題なのではないかということで注目を集めてきているということは事実でございます。それとともに、さらに違法伐採対策だけではなくて、ロシア自身が持続的な森林管理が行われているかということに関しても疑問視されていて、そういった面で、違法伐採対策というのが、ロシアの持続的な森林管理を考える上でも1つの入口としてとらえられているという面も否定できないと思います。

 もう1つは、ロシアの中でも特に違法伐採が問題、ロシア全体として違法伐採が問題なんだけれども、やはり極東が一番問題があるのではないかと指摘をするレポートなんかもございます。そういった面で、ロシアとのかかわりのある日本というものが、ロシアの違法伐採にかかわって、何らかの行動を迫られているという面があると思います。

 簡単に3点目の、持続的な森林管理が行われているかどうかということで、資料をお見せします。これは別に違法伐採があるからこういう状況になっているというわけではなくて、今までの森林の管理の仕方そのものが問題だと言われているんですけれども、例えばこれは1966年〜1998年にかけてのロシアの森林資源の動向を見たものです。蓄積自体はそんなに大きく変化はしていないんですけれども、例えば針葉樹ですとか成熟林の蓄積というのが大きく低下している。要するに中身がだんだん劣化してきているのではないかということが言われます。あるいは、きょうもたくさんお話が出てくると思うのですけれども、ハバロフスク地方の中で、木の年齢別の構成がどうなっているのかということを示したものなんですけれども、例えばこれを見ても、年をとった、古い、木材生産に適した部分、比率というのがどんどん下がっていって、若い木というのが大きくなってきているということもいろいろなところで示されています。あるいは、これは樹種を見たものなんですけれども、例えばここの地域で言うと、ロシア材を扱っている方はご存じとは思うのですけれども、チョウセンゴヨウというのがかなり価値の高い木ですけれども、こういったものの蓄積、面積というのがどんどん減少してきているということがここら辺から明らかになっていると思います。

 そういう面で、ロシアで、繰り返しになりますけれども、別に違法伐採があるからこうなったわけではないわけですけれども、要するにロシア全体の森林管理にかかわっている、やっぱりいろいろと問題がある。その中で、特に違法伐採問題というのが注目されていて、それにかかわって何らかの対策が迫られているという現状があるんだと考えております。

 もう1つ、違法伐採対策というのが、一般的に違法な行為をしているわけですから、それに対して何らかの対策をとらなければいけないということは、それは当たり前だと思うんです。特にロシアに関して、なぜ対策をとることが求められているかということについて、ちょっとお話をしておくと、これは共通の話ですけれども、まず国際的に説明責任を果たすということで、後からもお話しますけれども、ヨーロッパの企業なんかですと、ヨーロッパの市場というのはかなり環境配慮ということに関していろいろとうるさい、あるいは環境NGOなんかはかなり発言力が強いということもあって、違法伐採を排除するための何らかの行動を市場の側から、あるいは社会の側から迫られるということを日常的にひしひしと感じる面があると思うのです。一方で日本の場合はさほどそういううるさい声がないということで、差し当たってそんなに大きな問題ではないととらえがちです。一方で、今まで申し上げたような形で、違法伐採というのが国際的な問題になっているということで、やはり何らかの、私たちは関与していないということにかかわる説明責任を果たすことが求められているのではないかということがまず1つあります。

 次に、ロシアの極東において、1つ特徴的なことですけれども、違法伐採というものが、例えば先ほど申し上げたチョウセンゴヨウですとか、あるいは価値の高いナラとかタモだとかいう広葉樹をねらって行われる場合がしばしばあって、そういった面で、この違法伐採というものが結構生態的に価値の高い森林や保護林の破壊というと言い過ぎですけれども、劣化につながっていることが否定できない事実だと思います。ここら辺は、多くの場合、中国のほうが大きな問題だと言われているのですけれども、少なくとも違法伐採が極東の中では、特にこういう森林にかかわって大きな影響を与えている可能性があるということは否定できない事実です。

 それからもう1つは、この違法伐採が、実際にどのくらいの量行われているかはよくわからないにしても、何らかの形でいろいろなところで行われている。それが社会的に、こういった違法な行為、あるいは腐敗というのがかなり蔓延している状況で、これが森林間だけではなくて、地域住民まで巻き込んでしまっているという問題があります。要するに旧社会主義で、地域住民と森林というものが切り離される中で、国家的な森林管理が行われてきて、次にお話ししますけれども、国自体の管理というものにガタがきている。そうすると、実は地域住民などを含めて、みんなで森林管理を支えなければいけないというところで、実は社会全体にこういう違法行為というのが蔓延してくるということになってくると、これからの持続的な森林管理を支える担い手というものを考えた場合に、やはり非常に大きな問題ではないかということが言える。そういった面で、こういうことに対する何らかの解決策を講じるということで、ロシアの中での持続的な森林管理をつくるための入口をつくる。それは、ひいて言えば私たちの、日本も含めた、世界への木材の安定的な供給ということにもつながりますし、先ほど申し上げたような、さまざまな環境的な機能を発揮することにもつながることになるのではないかと思います。

 その中で、1つ問題になってくるのが、ロシアの政府にかかわって、違法伐採対策をきちんととって、それを実行するということが、実は非常に難しくなってきているという問題があります。今、政策自身も、それから森林を管理する組織自体も大きく混乱をしています。例えば森林政策を見てみますと、エリツィン時代というのは、エリツィン政権の政権基盤が弱かったということもあって、地方政府にどんどん分権化していって、地方政府が林政にかかわっていろいろな役割を果たすようになって来たんですが、今度はプーチン政権のもとで、一転して中央集権的な森林政策を進めています。それでまた非常に大きく揺れ動いたんですが、去年の暮れに、今度は実際に森林の管理にかかわるような組織、権限というのがまた地方政府に移るといった法律が採択をされています。そういう形で、非常に大きく森林政策の根幹が揺れ動いている状況にあるということがまず1つあります。

 それから、これは細かいことには触れられませんけれども、森林管理組織に関しても、この何年間かで、非常に大きな改革が繰り返し行われています。例えばこの間、ハバロフスクの森林管理にかかわる長の人、日本で言えば、国有林の森林管理局長にあたる方なんですけれども、そういう方にお話を伺うと、組織改編が頻繁すぎて、自分が今いるポジションがどういう名前なのかよくわからないという冗談が出るくらい組織改編が繰り返されている。そういったことで、現場というものがかなり混乱している状況があります。それからもう1つは、これはロシア全体、別に森林に限ったことではないのですけれども、不平が蔓延しているということが言われています。そういった状況の中で、たとえ中央政府、連邦政府でこういう対策をとりますと言っても、それを現場レベルで実行するのがなかなか困難な状況にあるというのが今の状況になっていると思います。

 一応、いろいろな法律のシステムですとか、森林管理組織というのはあるのですけれども、そこがこういう政策の点、揺れ動き、管理組織の頻繁な改変で、どうもうまく機能しなくなっていて、そこでこういう違法伐採対策に関しても、対策がとりにくい状況が今生じています。

 そういった中で、例えば先ほどヨーロッパ地域のお話をしましたが、一定のNGOと企業の協力ということが進みつつあります。何でこういうことが進むかというと、ロシア政府の実行力がどうもあてにならない。そうすると批判を避けたい企業、先ほどの説明責任ということになるんですけれども、そういう違法伐採材ですとか、原生林の木材を使わないということをいう。一方でNGOとしては、森林保護で何らかの成果をあげたい。それがうまく結びついて、北欧の企業なんかがいろいろな形で違法伐採対策、あるいは保護価値の高い森林から出てきた材を取り引きしないといった政策を打ち出していきます。

 これは、例えばフィンランドのUPMという会社のウエブサイトからとってきたものです。UPMのウエブサイトで、これはそのデモンストレーション用の写真からとってきたんですけれども、要するにきちんとロシアのどこの場所で、どういう形で伐採をしているのか、それについてきちんと監査をしていますよということを示している。例えば、この赤いのが、今現在、伐採地がこういうところにあって、こういうところをクリックすると、今どういう形で伐採が行われているかという写真が出てきて、そこに、NGOも含めて監査をやっていますよという宣伝をUPMというところはやっていて、こういう自主的な取り組みというものを始めつつあります。

 ただ、ヨーロッパの企業と日本の企業では、やはりロシアへの進出の仕方、事業の展開の仕方が全然違いますので、今のようなやり方というのがそのまま日本の企業ができるかというと、それはちょっと無理なんです。ただ先ほど申し上げたように、やはり何らかの取り組みをとらなければいけないということは事実だと思います。政府自身の取り組みを待っていては、なかなか違法伐採の問題の解決には結びつかないという状況にあります。ただ、今申し上げたように、ヨーロッパとは現地の活動の仕方が違いますので、参考になりつつも、それを直接導入するというのは難しい。

 もう1つは、日本の極東ですとか、東シベリアの問題というのは、中国の存在があります。今中国がかなり大量の木材をロシアから輸入していて、中国というのは、ほとんど違法伐採問題には、事実上関心を持つよりは、いかに自分たちの木材需要をまかなうかということが非常に大きな課題になっています。たとえ日本が対策をとっても、日本はうるさいことを言っているから、中国に輸出すればいいやという事態も起こりかねない。そういった面で、中国の木材輸出、中国との関係というものを我々は考える必要がある。そういった面で、どこかよそのものをそっくりそのままもってきて日本が適応するというわけではなくて、日本にどういうことができるのかというのを、この地域、極東、それから東シベリアの状況を踏まえた上で、何らかのやり方というのを考える必要があると思います。

 そういうことで、今回お2人の専門の先生をお招きして、生々しい実態、あるいは少し学術的な分析、そういったお話を今回伺えると思います。ですので、このお話をきっかけにしながら、最初から大きなステップをするというのは無理かと思うのですけれども、少しずつでも、日本はどういう取り組みを行うことができるのか、それを考えられるような機会にできればと思っています。

 そういう面で、皆様ぜひお話を伺っていただきまして、後の質疑応答の時間の中でも積極的にご議論をいただければとお願いいたしたいと思います。

 それでは、非常に雑駁でございますが、これで私のイントロダクションということで、おしまいにさせていただきます。

 それでは、最初にロシア極東経済研究所教授のシェインガウス先生からご講演をお願いいたします。

 

シェインガウス 柿澤先生ありがとうございます。

 皆様こんにちは。私の発表は時間が限られておりますが、限られた時間の中で、ロシアの森林セクターの現状について申し上げてみたいと思います。私のプレゼンテーションの構成はこのようになっています。この構成は、このセミナーの主催の方から、このような構成内容で行ってほしいというリクエストを受けてつくったものです。柿澤先生が、今既に皆様にロシアの森林の概要をお話しになりましたが、私は極東ロシアの特徴を幾つか例を挙げてみたいと思います。

 今ロシアには7つの連邦管区と言われる、国を構成する主体があります。このロシア連邦を構成する主体の1つが極東地域と呼ばれる地域です。またこの地域のことを太平洋ロシアという名前で呼ぶ者もおります。私達ロシアの人間は、ロシアの中でシベリアの地方と極東の地方の区別を明確にしております。外国ではしばしば、ロシアのウラル山脈から東のロシアの領土はすべてシベリアと呼ばれていることがあるときいていますが、私はきょうシベリアではなく、明確に極東地域のお話をしたいと思います。ビジネス、林産業の観点から見ても、今ロシアのシベリア地域と極東地域ではだいぶ現状が違います。今皆さんに画面でごらんいただいているのは、極東ロシア地域を構成する10の州とか地方、自治州のそれぞれの森林の面積ですとか、蓄積の数字です。ごらんのとおり、私たちの極東ロシア地域の森林の面積、蓄積ともに数字はとても大きいです。面積のほうは、単位は100万ヘクタール、それから森林蓄積のほうは100万立方メートルとなっております。

 しかし極東ロシア地域、10の地域で構成されているといいましたが、林業の観点から見てその可能性が大きいのはこの4つの地方です。サハ共和国も南のほうには有望な森林資源がありますが、経済開発がされていなくて利用は十分されていません。極東ロシア地域の森林は今フルに利用されているとは言えません。2005年の数字を見ますと、年間許容伐採量、政府が1年間にこれだけ切ってもよいと定める数字、年間許容伐採量の実に21.9%の量しか伐採されておりません。今ごらんいただいているこのグラフは極東ロシア地域の各地方の森林セクターの生産量ですが、生産の多い州は集中しています。最も生産量が多い地方がハバロフスク地方です。ハバロフスク地方に次いで2番目に生産量が大きいのがロシア沿海地方、第3番目がアムール州となっています。

 極東ロシア地域の林産業の構造は非常に単純、シンプルで、生産の大部分が原木、丸太の形となっています。極東ロシア地域の、この現状の問題は、加工業、製材が未発達であること、これがこれから未来にかけて解決すべき課題であると思っています。極東ロシア地域で生産される木材の大部分は海外へ輸出されています。過去3年間の数字、RFEトータルというところ、2003、2004、2005年と数字が増加傾向にあります。

 このラウンドウッド、原木の数字に比べると、その右側の製材品の生産量、これは著しく小さくて、しかも増加傾向というのでなくふえたり減ったり生産が不安定で製材に関しては量が少なく不安定です。今極東ロシア地域で生産される木材の輸入量の最も多い国は中国となっています。中国に次いで2番目が日本、その次が韓国となっています。以前極東ロシア地域で生産される木材の最大の輸入国は日本でした。しかし2002年以降、中国がロシア材の輸入量において、日本を抜いて第1位となっています。

 今ごらんいただいているグラフはNGOが違法伐採の量を見積もったものをグラフにしたものです。違法に伐採される木材、違法材の大部分は直接中国へ輸出されています。そしてこの違法材の流通、輸出の問題を最初に取り上げたのは非政府組織、NGOでした。今ごらんいただいているグラフはNGOによる違法伐採量の見積もりです。それぞれの各地方、沿海地方とかハバロフスク地方、1994年の場合、2000年の場合というふうにそれぞれのNGOが出した見積もりがこちらです。左の2本が沿海地方の数字、それから一番右側が極東ロシア全体の数字で、その間の3本がハバロフスク地方の数字です。ちょっと補足しますと、オフィシャルリポートというのは公式な伐採量です。アバーブリポートというのは赤い部分、公式に伐採されている伐採量を超えて伐採されている部分という意味だと思います。

 このように、違法伐採の量、見積もりに関して、かなりいろいろな数字のばらつき、隔たりがあります。違法伐採されている木材の量の見積もりにあちこちでばらつきがあるのは、その見積もりがいずれも完璧に信用するには足らない情報である。それで、私が申し上げるのは、実際の違法伐採の量、数字を正確に把握している者、正確にわかっている人間はどこにもいない、ということです。私は極東ロシアの違法伐採の問題を過去5年間にわたって調査・研究してまいりましたが、今私がその結果として言えるのは、極東ロシア地域で違法伐採されている木材の量に関して正確なことを言える人間はだれもいない。

 これら、いろいろなNGOですとか、いろいろな人が出しているそれぞれの違法伐採材の量の見積もりがありますが、これはどの数字が正しいというのではなく、ここで感じるべきは、違法伐採がこういうレベルで存在するということの目安、レベル、度合いを知るための目安であるとお考えください。

 それでは極東ロシア地域で違法伐採が起きる原因は何でしょうか。まず、法的な要因があります。目下、ロシアは法の改正とか、見直しとかが非常に複雑な進行を見せております。ロシアの経済と経済の改革の進行に伴って、森林に関する法律の改正とか見直しが常に行われてきました。そしてその結果、現状ではロシアの森林に関する法的な基盤が不十分です。これが論争の種となっております。そして現状ではそのような法整備の不十分さの結果、不誠実な人々、ずるい人々にとっては法の抜け穴がたくさん存在してしまっているということが問題です。ロシアの森林はすべて国有の資源となっております。しかし、昨年のことですが、それらの国有の森林資源を管理する国の機関が解体されました。そしてそのような森林を管理する機構の解体ですとか欠如が引き起こすのが、人々の森林法に対する違反や犯罪行為です。

 今、極東ロシアの森林セクターは市場経済になっています。しかし、極東ロシア地域の木材市場は成熟しているとは言えません、未成熟です。極東ロシアの森林ビジネス、林産業には間違った要素がまだあります。極東ロシアの林産業界の大きな特徴の1つはそれが輸出指向だということ、輸出を目指す林産業であるということです。そして今極東ロシアの林産業界を方向づけている最大の輸入国が中国ですけれども、中国という国の木材市場はあまり誠実さを求められない、正直でないこともある。経済的なひずみは、社会ひずみによって増幅される。社会的な面に目を向けますと、また新しい特徴、新しい局面があります。順法精神、法に従う、従わないという問題です。それから腐敗の度合いの深さ、大きさです。

 それから、私達ロシアの人間には2つのモラルとも言うべきものがあります。モラルというのは道徳です。今画面でごらんいただいておりますのは、ハバロフスク地方のある地方で私達が行った調査の結果です。「違法伐採についてあなたはどのように思いますか」という調査を行った結果です。私達はこの調査を日本のIGES、地球環境戦略研究機関と柿澤先生たちと共同で実施しました。このアンケートの結果が示しているのは、ロシアのこの地方の一般の人々の半分近くが、違法伐採は単なる違反であって、特にそれを犯罪だとは考えていないという結果が見てとれます。というわけで、極東ロシアの二重の道徳、2つのモラルというのは何でしょうかというと、公の数字とか発表とかで示されるモラルと、道徳と現実の生活をしている人たちの示すモラル、その二重のモラルがある。

 それから社会的要因、さらに多くの森林地帯の村落、集落において経済とか暮らしが停滞していること、人々の意欲の喪失状態が見られることです。今画面でごらんいただいているグラフは経済的に停滞している集落が上、下の部分が経済的に発展している集落、村の場合で、それぞれの集落に就労者とか、年金生活者、主婦、学生、人口の構成を示したグラフです。経済的に発展を遂げている村と、停滞してしまっている村とで、かなり村の人口の構成に違いが出てきていることがわかります。そして、ここで示されているような停滞している村、今収入がない人々、賃金を得る仕事がない人々が多いほうの村では何が起きるかというと、そういう収入のない人々が生活をするために違法伐採という手段に訴えてしまいます。

 私たちロシアの政府の違法伐採に対する公式な見方というのはどうなっているでしょうか。私は率直に申し上げますが、ロシアの政府の上層部、トップのほうにいる人々ははっきり言って違法伐採の問題にまだあまり大きな関心を向けてはおりません。ロシアの森林管理にかかわる政府機関、森林管理局とかの人々、担当者はこれまで長年にわたってロシアという国における違法な伐採の存在を否定してまいりました。今、画面でごらんいただいているダイアグラムはロシアの政府が公式に発表したロシアの違法伐採量の数字でございます。このグラフは単位が1,000立法メートルの単位となっていて、数値が非常に小さいです。森林管理をするべき政府の機関が違法伐採の実態を記録し発表することを拒むのはなぜなのか、私には理解しかねます。

 しかしそのロシアの政府当局が、2005年になってロシアにおける違法伐採問題の存在と重大性について明言しました。そして、違法伐採に対するロシア当局の最も重要な対抗手段としては次のようなものがあります。まず第1に2003年から始まったものですが、バーコードを用いた試験的な木材のラベリングです。第2に、これは2005年から始まっていますが、航空機による空からの監視とか、リモートセンシング技術を用いた伐採地の監視活動です。違法伐採と聞いたときに、私たちはつい小規模な盗伐団のようなものを想像しがちですが、航空機を用いた監視とかリモートセンシングを用いた結果、以前では知られていなかった状況、問題が明らかになってきました。例えば、今のこの画面の写真でごらんください。赤の線で示している部分がある伐採業者が、政府から許可を得ている伐採区域です。しかしこの伐採業者は、航空監視の結果、政府から伐採許可を得ていた森林区の外側、それ以外の箇所でも伐採を行っていたことがわかりました。こういうケースもあるので、違法伐採と言った場合に、必ずしも小規模な盗伐団ようなものだけが行うものではなく、れっきとした大手の伐採会社のような業者が許可を得て行っている伐採の中でも、現場で違法行為が発生する場合もあるということです。

 昨年ロシアで森林管理に携わる政府機関が大きな関心を向けたのは、ENA−FLEG、欧州北アジア森林法の施行及びガバナンスプロセスの実施でした。しかしこの手段が頼りになるのでしょうか、ならないのでしょうか。先ほど全部で3つの違法伐採に対する対抗手段の例を挙げましたが、1つ目と2つ目、バーコードと空からの監視、これを実際にやるためには次の事柄が必要となります。最も遠隔地にある森林区をも網羅するような、森林管理局の完全なデータのコンピュータ化。それから森林管理に携わる職員に対するIT、情報技術の訓練、トレーニングが必要となります。しかしこのようなことは現在の私達のロシアにおいては、少し非現実というか、すぐには実効性がないと言わざるを得ません。第3の手段として申し上げたENA−FLEG、欧州北アジア森林法の施行及びガバナンス、その手段に関連して、これまでに声明ですとか会議、会合、計画が生み出されたり、開かれたりしています。しかしそのような声明、会議、会合、計画に基づいた現場、森林での実際の活動はまだ始まっておりません。最大の問題、特に大きな問題は規制の緩和が絶え間なく進み、そして森林管理局が堕落、腐敗すること。森林を守るという、本来の森林管理局の責任であった仕事が森林管理局から奪われるという問題が2004年から起きております。例を挙げますと、ハバロフスク地方では以前は2,000人の森林保護管がおりました。その2,000人の森林保護管がハバロフスク地方各地の森林地帯に配置されておりました。しかし、その2,000人の森林保護管が仕事を失いました。かつて、2004年まで2,000人の森林保護管がいたのですけれども、人員が削減されて、現在はたった6人の森林保護管でハバロフスク地方全域の森林を管理することになっております。ちなみに、ハバロフスク地方の森林地帯と申しますと、あらゆるヨーロッパの国よりも広いくらい、それくらい広い森林地帯となっております。

 それから、税関の行動、税関の管理、権限も同時に制限されてしまいました。ロシアの中央政府、連邦政府の見方とか、考え方については先ほど申し上げましたが、ロシアの州政府とか地方、市町村の行政当局は連邦政府と比べてまた違った考え、手応えを得ている、行政当局のほうが連邦政府よりも違法伐採をより強く、激しく感じています。

 しかし、また一方の見方をすれば、州や市町村の行政当局の人間、職員がみずから森林管理に関する腐敗にかかわっている場合があります。そしてこれからロシアでは、中央連邦政府にあった森林管理の権限が地方に移譲されるので、大きな変化が起きることが予想されます。同時にロシアの新しい森林法典、新森林法典が施行され、これまた新しい状況に突入いたします。こうしたことの結果、影響は今のところだれにも予測ができません。極東ロシア地域の違法伐採は外国との木材貿易と強く結びついております。ですから、私たちはこれからともに違法な木材の流通をストップさせるための国際的な環境をつくり出す必要があると言えます。

 そのような手段として、私たちと皆さんがともにできることは、まず第1に木材の産地とか、出所の合法性の確証を要求することです。ロシアには森林の伐採とか生産に関していろいろな書類があります。木材の合法性を証明する書類がごあります。しかしこれらの書類はロシア国内での使用、用途しか考えられておりません。そして今ではロシアの税関ですらも国境や港で輸出業者に木材の合法性を証明する書類の提出を求めていません。今、政府系ではなくて第三者的な機関、NGOなどが入った国際的な認証機関のようなところの認証があるものがあればベストでしょう。

 現在極東ロシア地域で、国際的な森林認証を取得することに成功している林産企業は1社だけです。それはロシア沿海地方の林産輸出企業、Terneiles社です。昨年スイスのSGSとハバロフスク地方の天然資源局が、FSCにならってハバロフスク地方の未来の森林認証制度をつくるための合意を交わしました。それから、私の記憶が間違ってなければ、先ほど角谷さんや柿澤先生も言われましたように、日本の政府も違法伐採に対する取り組みを開始するとのことで、その関係でハバロフスク地方か極東ロシア地域の各地で森林認証制度の導入に対する支援が始まると聞いております。

 しかし、そのような森林認証の取り組みは包括的なものであるべきです。なぜならば今極東ロシア産木材の大部分が中国の市場に入っています。中国は市場経済が未成熟というか、不誠実、不正直なことが通る市場です。そして中国の木材需要は、現在日本の木材需要をはるかに上回るスピードで増大傾向にあります。ですから、もし日本の業者の皆さんが森林認証を求めるようになっても、中国で全く森林認証を求める動きが起きなかった場合、木材をめぐる北東アジア地域の経済、流通の構造が大きく変わってしまうことになると思います。伐採の合法性だけではなく、木材の加工や流通の段階での透明性、合法性も求める必要があります。NGOやマスメディアの支持も得ながら、違法材を拒否するという社会全体の環境を生み出すことが必要ではないでしょうか。

 それから、ロシアのもう1つ大きな問題ですけれども、いろいろな森林伐採とか流通に関する書類の偽造が非常に多いということです。しかしながら、違法伐採の問題は国際的な問題であるよりはまずロシアの国内、内部の問題です。違法伐採に関して、時々「あれは中国の業者が合法化しているんだ」と言う方がいますが、私の考えではロシアで違法伐採が起きるのはロシアに問題があるからだと思います。ロシアの違法伐採というのは単なる犯罪としての現象ではなく、ロシアの社会と深くかかわっている現象です。ロシアの違法伐採はロシアの社会の深くて広い腐敗の反映です。私たちが違法伐採の問題と戦うときに、ロシアのある地域の人口の相当の数の人々が違法伐採にかかわっている、携わっているということを忘れずにおく必要があると思います。違法伐採問題と戦うというとき、それは単に大きな木材マフィアのような組織と戦うとかいうことだけではなくて、違法伐採というものにかかわってしまっている地域の大勢の一般の人々の問題と戦うことであるのだと理解するべきだと思います。違法伐採との戦いというものは、社会的政治的に行うべきです。つまり系統立てて、理路整然と行わなくてはいけません。そのような戦いをするためには強い、固い政治的な意志を明らかにして、行政から腐敗を閉め出すことが求められます。

 さて、極東ロシアの森林セクターの未来はどうなるのでしょう。私はここまで違法伐採の話をしてきましたが、極東ロシアの森林は違法伐採一色ではありません。実は極東ロシアで行われている森林伐採とか、極東ロシアの林産業の大部分は合法的に行われているもので、違法材とは関係はありません。1998年のロシアの財政危機の後、森林セクターは高成長を示しました。

 ここで、目下ハバロフスク地方で進行中の林産に関するプロジェクトを幾つかご紹介してみたいと思います。今画面でごらんいただいている青い文字になっているところが現在進行中、実施されているプロジェクトです。1つ目は日露の合弁事業です。残りは中国、もしくは韓国の企業との合弁事業です。それからその下の黒い字で記してあるところは現在交渉が行われているプロへジェクトです。ハバロフスク地方以外、これはハバロフスク地方の例ですが、このほかにも沿海地方ですとかアムール州、それからユダヤ自治州ですとか、そういった極東ロシアのほかの地方や州でもこのようなプロジェクト、合弁事業が行われたり、交渉されたりしております。 極東ロシアの森林セクターの問題、今大きな問題の1つは投資の不足です。

 これは極東ロシアの経済研究機関が出した2010年の予測、見込みです。北東アジアのすべての国において、木材の不足が増大することが予測されています。例えば左下の四角が日本ですが、緑色の部分が国内で供給できる国産材です。青いところが外材。中国では木材需給の逼迫がより深刻になることが予想されます。そしてそのような木材の不足、外材、極東産やシベリア産の北洋材に依存するという傾向がほかの極東アジアの国々、韓国、北朝鮮、モンゴルなどでも顕著になっていくことが予想されます。極東ロシアの森林セクターはこれからさらに成長する可能性がある。私は極東ロシア地域の森林セクターの成長は、少なくともこれから10年以上は続くものであると考えています。

 ここで私の持ち時間は終わりに近づいてきました。ご静聴どうもありがとうございました。

 

 柿澤 シェインガウス先生、どうもありがとうございました。ただいまのお話は違法伐採のメカニズム、法制度とか経済とか社会とか、かなり複雑な要因が絡み合って発生しているということ。それに対して連邦政府がやっと重い腰を上げましたが、組織的な劣化ということもあって、対策がなかなかうまく機能していないという状況。それから違法伐採対策に関して、やはり個別的な話ではなく、社会全体、経済全体、そういうシステム的な考え方でいかないとなかなか解決ができないんだというお話。そして最後に、違法伐採のお話はあるけれども、ただ、大多数の部分はきちんとした合法的な活動が行われていて、しかも先の、東北アジアの国々の需給の状況を考えると、ロシア極東にかかわっては、これからも林業セクターに大きな発展の可能性があるというお話だったと思います。

 それではここで、10分ほど休憩をとって、次のレベデフさんのお話に移りたいと思います。

 

 柿澤 BROC議長のアナトリーV.レベデフさんから「極東ロシアの森林と日本との木材貿易」ということでご講演をお願いいたします。

 

 レベデフ こんにちは、皆さん。だんだん睡魔が襲ってくる時間ですが、目を覚まして、お話に入りたいと思います。まず初めに、今回私にここで発表させてくださいます全木蓮の皆さんに感謝を申し上げたいと思います。

 私達の団体は小さな団体ですが、過去10年間にわたって極東ロシアの南部の地域で森林伐採のモニタリング、監視を行ってきました。その森林伐採の一部には違法なものも含まれていました。そして、この過去10年間で違法伐採というものに対する私たちの見方は、違法伐採をめぐる状況の変化とともに見え方も変わってきました。私たちは、例えば密猟ですとか盗伐のパトロールのような活動も行っておりました。そしてこういう活動を通じて、私たちが感じたのは、違法伐採というのは単なる犯罪ではなくて、環境と社会と経済、すべてが交差するところで起きている問題であるということです。私どもの活動の特徴は、ジャーナリスティック、自分自身ジャーナリストなので、ジャーナリストの視点で行う活動であることが特徴であります。それから伐採の行われている地域の人々に近づくというか、地域の人たちの視点を取り入れる活動であることが特徴です。そして私達は、以前は盗伐をしている人たちを追いかけたり、追跡していたりしていましたが、その後は考え方が変わってきました。私たちが現場で見ている中小の伐採業者の人たちとかかわっているうちにいろいろな問題の本質が見えてきました。

 私たちは過去にいろいろな活動もしました。何年か前に富山の沖合で、北洋材を積んだ船にグリンピースの船が抗議するということがありましたが、あれにも私たちはロシアのNGOとしてかかわっていたりしていたんです。過去にそういう活動もしましたが、今私たちは、ロシアの中小の伐採業者が私たちのところに、なるべく違法なことをしないで商売ができる方法がないかという相談をしに来てくれるようになったのがとてもうれしいです。

 今やロシアの連邦政府、中央政府もロシアという国に違法伐採の問題があるということを公式に認めるまでになりました。そうした状況になって、今度私たちは、問題はまた別のところにあるという考えでおります。先ほどの発表でシェインガウス先生が言われておりましたが、ロシアの違法伐採問題の原因となっているのは管理の悪さ、ガバナンスの悪さが国の至るところで蔓延していることです。ここから、私のプレゼンテーションをごらんいただきたいと思います。私はもう少し、現地、現場の様子を皆さんに見ていただけるようにお話したいと思います。

 昨年、沿海地方の業界団体、直訳すると沿海地方木材輸出者協会が行った発表によれば、昨年ロシア沿海地方は80万立方メートルの違法伐採を輸出しその80万立方メートルの60パーセントが中国に行きました。その樹種は、チョウセンゴヨウ、ベニマツとか広葉樹材が主でした。そしてこれらロシア沿海地方から中国に入った違法材は中国で加工を施されて、付加価値をつけられて日本に売られています。ロシア沿海地方の場合ですと、現在では原木のうち直接日本に輸出されているのは30%に過ぎないです。

 ここで森林を管理する人員、森林管理官の人数に目を向けてみたいと思います。先ごろロシアの天然資源省というところが連邦政府に、森林管理官はこれだけの人数、2,254人必要であると要求したそうです。一方で、現在ロシア連邦自然利用監督庁というところがありますが、そこが極東ロシア地域に配置しているレンジャーの数は47名です。そして今現在、ロシア沿海地方ではたった6名のレンジャーで1,200万ヘクタールの森林区をカバーする必要があります。今6人と申し上げましたが、以前は同じ面積の森林地帯を500人〜600人の人数の森林官で管理していました。それで、このように森林管理官、森林保護管の大幅な人員削減が行われた結果、何が起きているかと言うと、盗伐をしようとしたりする者たちにとって、完璧な自由を与えてしまっています。そしてこの盗伐とか違法伐採の問題に対抗できるのは、森林保護管が人員削減をされてしまった今や警察官だけなんです。警察は違法に伐採された木材を見つけたら没収、押収するだけだと。没収、押収をして何をするかというと、自分たちで販売して利益を得る。警察は肝心の違法伐採の取り締まりのようなことは行おうとしない。

 これまでの数年間、国際的な環境団体とか、ローカルな市民団体の人々が警察官と一緒に森に入って、違法伐採のパトロールをするという活動を行っておりました。そして今ロシア沿海地方では、先ほど申し上げたロシア沿海地方木材輸出者協会が森林パトロールのチームをつくってパトロールを行っています。名前は「松組」です。しかし、それだけでは違法伐採をストップすることはできません。なぜならば、違法伐採というものが今まさに官僚や役人の収入源となっているからです。役人が賄賂を受け取る、腐敗が起きている。それからいろいろなコミュニティ、村とか町自体が違法伐採に依存してしまっている。違法伐採が生活の手段になってしまっているようなところがあるという問題があります。

 今各地でロシアの当局の人々とNGOが協力して、犯罪を減らす、それから森林の利用伐採が持続可能なものになっていくように努力をしています。そして、そのようにして、ロシアの当局の人々とそれから環境NGOの人々が一緒になって解決策を求めた結果、よい解決策だろうとまず上がってくるのは森林認証です。FSCという森林認証があります。現在ロシア極東地域では今のところまだTerneiles社という1社にすぎませんがこのFSCを取得しております。しかしそのFSCを取得したTerneiles社に関しても、詳しく見ていくとFSC原則というのがありますが、その3番目と9番目に少し違反している部分があると思います。そのFSCの原則の3番目と9番目というのは、先住民族の住んでいる森林地帯に関する原則、それから未開発、手つかずの森林地帯の扱いに関するFSCの原則、Terneiles社はこの2点においてまだFSCの原則に合致していないところがあると私たちは考えております。Terneiles社の側としては、目下解決に向けて、まず森林地帯の先住民族、少数民族のグループと協定を結ぶ。それから環境NGOのグループとも協定を結んでその問題の解決に向けています。

 先ほどシェインガウス先生が言われておりましたが、ハバロフスク地方では4社、4つの林産企業が森林認証づくりに向けたプロセスに取り組んでおります。そのような森林認証のシステムをつくるため極東ロシア作業会というものが昨年11月にウラジオストクで開始されました。これが実際の成果を生み出すことはまだまだ悲観的な見方もあります。と言いますのは、北洋材の輸入国側、消費している国の側で認証された木材、認証材が欲しいという強い需要が今のところ見られないからです。

 そして皆さん既にご承知のとおり、森林認証というものについて、もう1つ大事なのは、木材の流通ですとか加工の過程における透明性です。今非常に解決しづらい問題を生みだしている現象としては、小規模の伐採業者が卸売り業者に木材を売る際に、その流通の過程で透明性が非常に低いことが問題です。この部分、私の申し上げたいことを通訳者が正確に日本語にしてくれることを願っておりますが、今この問題はより深くなっていく恐れがあります。というのは、今ロシアという国は、国家が合法的に、ロシアという自国の経済、環境、それから社会を破壊しにかかっていると私は考えております。それほどまでに、ロシアという国では腐敗が進んでしまっている。私たちは、単に合法、非合法という問題よりももっと大事な問題を提起したいと思います。それは環境とか地域社会への配慮を持った木材ビジネスであるかそうでないか。単に法律と照らし合わせて、合法である違法であるという判断を超えて、環境とか地域社会に配慮した木材調達とか流通になっているか、その基準で判断していくべきであると、行政の方や科学者、専門家、NGOの人々と今まで話してきた結果、私たちはそう考えております。

 とは申しましても、もちろん私たちはロシアの政府は林産ビジネスを全く管理するな、コントロールするなと言っているのではありません。例えばロシアの政府が現在行っている取り組みでも私たちが評価したいと思うものがあります。1例を挙げますと、1990年代に、ロシア沿海地方で木材の輸送の認証、木材の輸送に対する認証、すべての流通過程をチェックするという沿海地方で試みられていた認証制度がありました。その沿海地方で導入されて、試みられていた木材の流通過程を検証、認証するというシステムは一度2000年にロシアの環境警察が、当時の法律と照らし合わせて整合性の面で問題があるということで一旦廃止されましたが、今再びこのシステムが評価され、今度ロシアの連邦政府がロシアの全土でこの方法、木材の輸送に対する検証と認証というシステムをやってみようとしています。これはいいことだと思います。

 それから、バーコードを用いた、試験的な木材ラベリングというお話が先ほど出ていましたが、今ロシアの連邦政府においても地方政府のレベルにおいても、このバーコードを用いた森林認証というものの導入が検討されて、話がされておりますが、木材を輸入される立場の皆様に今の時点で申し上げておきたいのは、このバーコードの話のほうはそんなにすぐには実現する運びにはならいだろうと思います。これを本当に導入しようと思ったら、大きな改革が必要ですし、初めから徹底させる必要がありますし、それから何よりもいろいろな部分でお金がかかるので、バーコードに関してはすぐに実現するとは私たちは見ておりません。

 先ほどシェインガウス先生がプレゼンテーションの中で言われていましたように、近年極東ロシアの木材、北洋材の輸出先が、日本から中国へシフトする傾向が、特に4年前から顕著になってきている。皆さんご存じのとおりですが、その背景とか理由について、私たちの思うことをここに幾つか挙げてあります。まず第1に、ロシアの木材輸出業者にとって、日本と比べた場合に、中国は陸路で行けますし、貨物の積みかえや何かも回数が少なくてすみますから、アクセスが圧倒的に楽である。それから中国の木材業者、卸売業者はロシア材の輸入のための契約の形態とかビジネスの形態が多様で、自分でみずから来て伐採をやるということもやっている。それから、中国の業者はバーターを幅広く行っていて、価格とか取引の条件に関して柔軟、臨機応変です。それから、日本側で起きていた変化もロシア材が中国に流れる変化の原因になっていたかもしれません。日本で価格が急激に下がったこと、これで取引の交渉に変化が生じました。それから日本の業者の方々、皆さんは中国の木材業者の方と比較した場合に木材の品質に対して非常に要求が高い。日本の業者の皆さんはロシア当局の保障の有無というものに非常にこだわっておられるのではないか。それから今のところ日本の業者の皆さんはロシアの小さな企業、小さな業者はあまり利用なさっていないのかなと。ロシアには外国からの投資があればいい仕事をする中小の業者があるのですが、そういったところへの信頼というものがまだないのかなと。こちらの表は中国、日本、それから韓国のロシア材輸入量、1998年〜2003年までの数字を示したものです。途中で中国の輸入量が日本を抜いている。2001年のあたりで並んで、2002年に中国が追い抜いた様子をごらんいただけると思います。

 このページ、上半分と下半分を分けてごらんください。上が現在のロシア材が中国を経由して日本に行く流れ、四角が4つ並んで矢印で運ばれている。そちらがロシア→中国→日本という現在の木材の流れです。一方下半分は私の提案してみたい木材の流通のあり方です。ロシアから日本へダイレクトに、しかもより安い価格で行くという別のモデルを私は提示してみたいです。

 今極東ロシアの林産業界の傾向について、幾つかのことが言われております。まず極東ロシア地域の南のほうで起きている傾向は、中規模から小規模の製材工場、製材をやる会社がふえていて、その製材した木材の販売先が中国市場、それからヨーロッパのスタンダード、欧州のスタンダードに合わせて木材を加工している。そのような、新しく出てきた中小の製材業者は、ヨーロッパ製の製材の機械を多く使っております。一方ハバロフスク地方で、数年前にハバロフスク地方政府が日本製の製材機器か工場を10購入いたしました。しかし現在その中で稼動しているものは1つにすぎません。先ほど日本製の機械が十分に活用されていないと申し上げたのは、日本製の機械は低質材は加工できない、高品質の材料しか挽けない機械であった。ロシアでは低質材も多いですが、そういう低質材が挽けないので、今十分活用されていない。このような傾向が助長しておりますのは、出所の不明な木材とか盗まれたような木材、盗難品であるような木材が原材料として、製材の材料として混入してしまうということがあり得ること、それから中国人労働者、ロシアで木材業に従事する中国人が非常にふえています。

 また、ハバロフスク地方では、木材の加工まで手がける業者には木材の伐採代金とか賃借料を安く設定する。つまりハバロフスク地方の行政として、加工業の発展を促進、推進するための措置、インセンティブを与える政策をとっていたのですが、残念なことにこの措置は、昨年連邦政府によって中止されてしまいました。原木の輸出に対して税金をかけ、それから加工材に対する税金を減らすということをあまり急激でなくソフトに一歩一歩行っていけば、極東ロシア地域でより木材加工率が上昇するのではないかと期待できます。そのような、原木輸出に偏る産業の形態から加工もふやしていくという状態への変化は一歩一歩ソフトに行っていったほうがいいのですけれども、ロシアは今WTOへの加盟を望んでおりまして、WTOに入るとあまりゆっくり変化するということができなくなって、急激な変化をせざるを得なくなって、それもまた心配です。

 それから違法伐採を減らすための有効な手段としては、木材以外の林産物、山菜とか種子等の森で取れる、食べられるものとか薬用になる植物ですとかの経済的な活用を推進することが必要です。そういったものを活用して地域の人々が生計を立てられるようになれば、住民がやるような違法伐採も減っていくのではないかと思いますが、そちらの部分に対して、政府はまだ十分関心を向けていないと思います。

 それから、木材企業、林産企業の合併とか吸収も今トレンドとなっております。私の考えでは、中規模の業者を大規模の業者が吸収してしまうことには幾つか問題があると思えます。それは、社会的に目を向けるべきところが無視されてしまうのではないか。あと、森林に基づく資本、森林が土台となる資本が森林のないところ、よそに行ってしまうのではないか。それから吸収によって、木材の流通過程がまた不透明になって、透明性が失われてしまうのではないか。一方、中規模の林産業者がより小規模の、もっと小さな規模の業者を吸収する、この場合はいい特徴があり得ると思います。そのような中規模の業者が小規模の業者を吸収することによって、それまで違法伐採を行っていたような人々がなるべく合法的な伐採に向かっていくようになると期待できますし、それから森林に基づく資本、お金を地元に置いておくこと、つなぎとめておくことができます。それから木材の流通経路、ルートが全体として短くなるので、検査がしやすくなる、木材の出所を確認するのが容易になります。

 ここで、話をまとめてみたいと思います。私は日本の皆様に極東ロシアの中小の製材業者にも目を向けていただきたいと思います。私から見て信頼のおける、信頼に足る伐採権を持っている業者の名前をここで幾つか挙げておきます。Terneilesstroy、Eurostandard、Yappi、それからVostok。一方日本の皆様にお勧めできない、よくお考えいただきたいのは、卸売り業者から扱う木材を買うこと。それから禁伐種ですとか伐採が制限されている樹種を購入すること。例を挙げると、チョウセンゴヨウマツ、ベニマツ材、それからシナノキ、アムールシナノキ、リンデン、ライオウです。それから没収、押収された木材、それから衛生伐の名のもとに伐採された木材をお買いになることはあまりお勧めできないと思います。

 以上のようなわけで、木材のよりよい調達方針というものを考えたとき、ぜひ中規模のロシアの伐採業者をご支援なさってください。そして中国を通さずに、ロシアから日本への直接の木材の流れをつくること。それから極東ロシア産の低質材でも可能な加工をつくること、それから現地、現場でNGOですとか現地の住民の人たちと関わり合いになりながら働くことを提言したいと思います。

 ご静聴ありがとうございました。

 

 柿澤 レベデフさん、どうもありがとうございました。

 ただいまのお話は、1つは地域とのかかわりということがやはり重要だと言うことを協調していらっしゃったと思います。地域の中規模な業者、それから低質材を含めた、そういったところでの加工ということで違法伐採を減らすことができるのではないか。そういった面で、地域に配慮したビジネスのあり方を考えたいということ。それから今連邦政府としても、例えばバーコードに関しては難しいということでしたが、流通過程に認証を要求するような、証明書を要求するような仕組みをつくろうとしていて、少しずつそういった体制ができつつあることを指摘されておりました。お2人の先生、どうもありがとうございました。

 これから質疑応答に入りたいと思いますので、ご自由にフロアのほうから質問、あるいはご意見等をいただけたらと思います。よろしくお願いいたします。いかがでしょうか。

 

会場 具体的な日本の業者からよく聞かれることとして、質問をしたいのですけれども、日本の業者の方が材を輸入しようとしたときに、できれば合法的に伐採された材、あるいは産地がはっきりした材を買いたいと思っても、なかなかそういうものを買えるシステムがないというお話を伺うのですが、これに関して何か具体的にこんなふうなやり方があるのではないかといったご提案がありましたら、お話をいただければと思うのですが。

 シェインガウス 今日のロシアの制度のもとではある木材が合法であるということを完全に証明できる書類ですとかシステムがありません。現在ロシアにある書類はある業者が当局からきちんと伐採権を得ているということを証明する、そういう書類はありまs。伐採権を証明する書類というのは、その伐採されている土地、伐採が行われている森林でしか確認ができないんです。そのほかの地域でその書類が有効になって合法性を証明したり、切られた木材がその書類に適合しているかというのを確かめる手段はないです。森林においてのみしか確認されません。

 中心となる主要な管理は伐採地で行われるべきです。しかしこの伐採地における管理が今森林管理を行う政府機関の解体によって十分行われておりません。その管理のチェーンというのを今これからお見せいたします。ごらんください。政府のほうからそこで伐採権を得ます。その後に森林の中に入って森林許可を得ます。そこで木材を管理するという書類をもらいます。その書類に基づいて、そこで森林区の中で、ちゃんと許容された木材が切られているかどうかという確認が行われます。その後の管理というのはより複雑なってきます。現在のロシアの状況に関してですが、レベデフさんが言われたように、警察によるパトロール、管理というものが道ばたで、道路などで行われています。その警察によって、道ばたにトラックなどが停車させられた場合はそこで書類の確認が行われます。既にその段階で、書類に書かれている木かどうかというのは確認できない状態になっています。木材積載場に運ばれたところでは、合法なものも非合法なものも合わせて全部積まれていますので、全然区別がつきません。ですから、合法性を確認するためには、レベデフさんが言われたように、書類のシステム全体を変える必要があります。それゆえに、私たちは森林認証というものに大きな望みをかけています。なぜならば、森林認証というのは伐採している地域から始まるからです。ある企業が認証を持っているということがわかれば、伐採地を中心としたモニタリングが行われているということを証明することになるので、私は認証というものを信じることができます。

 

 レベデフ 私はそれにちょっとつけ加えたいのですけれども、日本の企業の方々に。ぜひ私たちの地方にいらしてください。そして私たちの地方で働いている伐採業者の方々と直接話してみてください。そうすると今皆様が持っていらっしゃる疑念であるとかは吹き飛ぶと思います。

 

 柿澤 ありがとうございます。なかなか状況は難しいということですけれども。何か関連しなくても結構なんですけれども、皆様のほうから何かございませんか。

 

会場 プーチンも工業化をどんどん進展させて行きよりますが、どんどんロシアの山を切っていけば京都議定書も履行もできなくなるようなこと、このことが一番大事ではなかろうかと思うのですが、どうでしょう。

 

 シェインガウス 植林に関してですが、現在非常に真剣にそれに取り組んでいる機関があります。それはいろいろな地域にあるものです。ヨーロッパロシアのほうで森林の復興が難しいと思われている地域では伐採された地域、全域において植林が行われています。極東ロシアのほうでは、ほとんどの地域で更新が良好なので、更新が難しいと思われる地域において、極東ではとりわけ植林が行われてきました。ソビエト連邦が崩壊するまでというのは、極東地域で年間5万5,000ヘクタールの植林が行われていました。この量というのは、森林伐採の後というよりも、火災の後で更新できないという森林の面積をほとんどカバーするくらいのものでした。現在植林の面積というのは2万ヘクタールに縮減されました。この面積というのは必要な分だけをカバーするものではありません。きょうここで、話す機会がありませんでしたが、私たちの森林において一番メインの問題というのは、やはり森林伐採ではなくて森林火災です。

 もう1度強調したいのですが、私たちの極東の土地で天然更新が行われないという土地に私は出会ったことはないです。その中でも天然更新が非常に困難で難しいとなっている土地というのは、伐採の後ではなくて、伐採の後で火災が起こったというところ、もしくは火災の後でまた火災が起こったという土地です。日本の企業の力をかりた京都議定書への取り組みということに関して言うと、何度かロシアのほうに日本の方がいらしたことがありますが、森林ということに関しては私たちはまだ何も取り決めはしていないです。京都議定書に批准するためのプロジェクト、対策として取り組んでいるのはエネルギーの分野、それでの日本の方々との協力のプロジェクトはあります。

 

 柿澤 それでは後ろで手を挙げていらっしゃった方、どうぞ。

 

 会場 先ほど合法性の話が出たんですけれども、4月1日からグリーン購入法の、政府関係のほうですと、もう間近なんですけれども、この合法性を証明できないと、官のお仕事に納入するときに、今のでいくと、針葉樹合板なんかは相当ラーチが入っていますので、使えないということになるのでしょうか。いずれにしても今後、この動きは大手の建設会社とかビルダーさんに進んでいくと、合法性が証明できないとなるとちょっとやっかいなので、その辺はどうなんでしょうかね。

 シェインガウス これに関してはすごくおもしろい話があるのですけれども、ロシアのほうではこういう法律ができますと言って、その法律が施行されてから企業たちがあわてて取り組みを始めるというケースがよくあって、私はそれに対してよく怒るのですけれども、まさか日本のほうでそれに似た状況が起こる私は思っていませんでした。

 

 柿澤 今先生方には、日本の今回のグリーン購入法の内容と実際それがロシアにかかわってどうかということについてお答えいただくのは難しいかと思うのですけれども。先ほどお話になった合法性というのは、かなり伐採地から実際に港まで、全部合法的に来ているかどうかというのをきちんと証明できるかどうかという、かなりきついお話をされていましたけれども、グリーン購入法において、そこまでの合法性というのは、今のところは実質上求められていない。例えば輸出業者側のきちんとした証明ですとか、そういうものでできるということだったと多分思います。当面のグリーン購入法にかかわるようなこととしてはいろいろな感謝の仕方というのがあると思うのですけれども、先ほど先生方が言われた合法性の一番根本的な問題ということにかかわってはかなりシステム的な問題、複雑な問題があって、それを根本的に解決するとなると、もう1段階別口の方策、かなり根本的な方策が必要になるということで理解できるのではないかと思っております。

 

 会場 今、グリーン購入法はそこまで複雑なことを要求していないということなんですけれども、ただ証明的なものを取りつければということだったのですれども、その証明的なものを取りつけること自体が非常に苦しい状況ではないかということで、我々は輸入業者ですが、今それに非常に苦慮している状況ではあります。今まさに、先ほどご質問のあった4月1日の改正グリーン購入法の施行によって合法性を証明できないと本当に使ってもらえないのではないかというご質問に対して非常に賛同するところではあるのです。どうしたらいいのかなということで、我々は非常に困惑している状況です。ですから、非常に難しいところではあるのですけれども、先生方にこのようなタチなところの質問をするのはちょっと難しいのかもしれないですけれども、そういった書類的なものというのは、今の先生のご説明の中では、それこそ合法であるものかないものか、集散地に集まってしまえば出所が本当にわからなくなるという、ロシアのシステム的な、トレースが非常に難しいという現状をおっしゃっていただいたのですけれども、それに絡めて、目先にはグリーン購入法というのが控えておりまして、本当にどうしたらいいのかというのが、今ここに集まっている人間が非常に苦慮しているところではないのかという印象があります。

 

 レベデフ このような図を見せましたけれども、まずロシアから合法性証明の書類がない木材というのが出ることはまずありませんから、今のところはついている書類というものがあなた方は信じて、とりあえずはきのうと同じように買い続けてください。これからの対策としては、ロシア国内に行って、しっかりした対策をとっている森林の企業の方とかと働くという方法がいいのではないかと思います。

 

 シェインガウス それにつけ加えます。私たちの国で日本の市場に興味のない伐採業者とか輸出業者は日本を無視して中国に方向性を変えてしまいます。中国の市場では木材の価格というのは日本よりさらに低くなります。それを覚悟して、輸出業者は働かなくてはならなくなります。日本の市場とやりとりするとなるとまた別の難しい問題が出てきます。日本の市場では現在カラマツの需要というのが非常に多いのですけれども、その樹種が足りないということが起きてきます。

 自動車の話になりますけれども、ロシアでは、昨年右ハンドル車に対して高い関税をかけるという新法が施行されそうになったのです。これに対して、極東地域では非常に日本の中古車、愛車が右ハンドル車の人が非常に多いんですが、みんなでデモをしたり抗議をしたりして反対をした。日本車を自分たちは買いたい、乗りたいと。それで政府が新法の施行を1年延期することにしたということがございました。ですので、日本でも例えば新しい法律が皆様のビジネスにとって大打撃となるのであれば、皆さんで声を上げて、法律の施行に反対すると。もちろんロシア国内で日本の市場に対して関心を持っている企業というのは、認証をとろうと今一生懸命になっています。一生懸命になっているのですけれども、その作業というのは1カ月、2カ月という期間の中で完了するものではないですから、少なくとも年明け、ことしの末くらいまではかかる作業なので、すごく長い時間がかかることだと思います。

 

 柿澤 そろそろ時間ですが、もし何か最後にどうしてもお聞きしたい点がございましたら、簡単にお願いします。

 

 会場 インドネシアは不法伐採丸太をなくすために丸太の輸出を禁止しましたけれども、ロシア政府が不法伐採の丸太をなくすために、ロシアからの丸太輸出を禁止するということは考えられませんか。

 

 シェインガウス 私たちはロシアから丸太を輸出しないという対策に対して反対してきました。それはすごく現実的ではないので、いきなりそういう対策に踏み切るというのは非現実的です。そのかわりロシアの製材と丸太の両方に税関でかかる圧力というか、負担というものが次第に丸太のほうに多くかかるようになってきて、製材のほうは低いというふうに、次第になってきて改善されつつあります。しかしこれからロシアがWTOに加盟することになりましたら、その状況というのがまた変わってしまうのではないかと私たちは心配しています。今申し上げましたように、丸太に対する圧力を強くして製材のほうは弱めるという対策が、もう幾つか書類において、幾つかの計画においてとられています。それがこれから2〜3年の間に実現されるのではないかと思います。

 インドネシアに関して、少しつけ加えますが、丸太の輸出が禁止という法律ができてから、逆に大量の違法の丸太が中国や何かへ運ばれ始めたという事実があります。

 

 柿澤 どうもありがとうございました。予定していた時間になりましたので、これで質疑応答を終わりたいと思います。先ほどの合法性のお話というのは非常に難しい問題で、この前いろいろな方々と議論をしましたが、議論をしてもなかなか、現実の問題があまりにも大きくて、例えばこれに関してすぐに合法性の証明が可能になるという状況では、とてもないということがある。少なくとも、当たり前のことですけれども、段階的に進めていくしかない。とりあえずは例えば伐採証明書とか、そういうものを使ってやるしかない。こういう形で、1つずつ段階を踏んで、問題の解決に向かわなくてはならない。ということで、また改めましてこのような議論の機会を設けていただき今後も皆様と一緒に考えていきたいと思います。

 それではきょうは長い間、2人の先生、どうもありがとうございました。

 

 角谷 どうもありがとうございました。皆さんもう1度お三方に拍手をもってお礼を申し上げてください。それではこれにてセミナーを終わらせていただきます。皆さん最後までご静聴ありがとうございました。

――了――

(作成:全木連 加藤)