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違法伐採対策国際シンポジウム
「ストップ・ザ・違法伐採」開催概要

 

開催日時: 2003(平成15)年6月24日(火)10:00〜12:30
開催場所: 赤坂プリンスホテル新緑の間
主催: (社)全国木材組合連合会
後援: 農林水産省、在京インドネシア共和国大使館
出席者: 約150名
司会: 木平勇吉 日本大学教授、林政審議会会長

 

<発言要旨(発言順)>

北村直人農林水産副大臣:

インドネシアと日本は、これまで特に森林分野において緊密な協力関係を築いてきた。このような協力関係を基礎に、昨年アジア地域における持続可能な森林経営推進のために、アジア森林パートナーシップを発足させたところである。そして今般、合法伐採木材の確認、追跡システムの開発や違法伐採木材の流通・貿易からの排除の研究などをインドネシアと日本が協力して計画的に進めるための共同計画とアクションプランを両国首脳立会いのもとで両国大臣間で署名することとなった。

このシンポジウムを通じて、日本及びインドネシアにおける違法伐採問題の議論が活発化し、また、日本・インドネシア両国の相互理解が深まることを祈念する。

モハマッド・プラコサ インドネシア共和国林業大臣:

私は、2001年8月に林業大臣を拝命した。そのとき、これほど異常にインドネシアの森林が破壊されているという事実に接して、非常にショックを受けた。

私が、林業大臣に任命されるときにメガワティ大統領から申しつけられたのは、どんな手段を使おうとも、どれほどの費用がかかろうとも森林を守り森林の劣化を防ぐことに最大限努力することが私の任務だということだった。だから、私は林業政策の変換、転向を考えた。すなわち、森林と呼ぶにふさわしい森林の機能を回復し、まだ残っている原生林をとにかく守らなければならないと考えている。そこで、私たちは木材を中心とする開発から、方向を転換し、保全と回復に向かう。

具体的には、持続可能な森林開発に変えていくため、生産量・伐採量を徐々に引き下げて劣化・荒廃した林地を保全・回復させる。

森林破壊の主な原因は、まず違法伐採であり、森林火災である。また、林地の他用途への転用もある。

このような森林破壊は周辺に住んでいるものだけでなく、地球全体に大きな影響を与えるということを、私たちは非常に憂慮している。また、この問題に対しては、世界中のみんなが憂慮し関心を寄せてくれるようになった。そこで、私たち林業省は、この森林破壊の主な原因である、違法伐採と森林火災に対する措置を考えている。

今、私たちは5つの優先的政策を掲げている。違法伐採の撲滅、森林火災の防止、林業部門の再編すなわち木材産業の原木需要と森林の生産能力のバランスをとるということ、森林資源の回復と保全、林業部門における地方分権化すなわち権限の地方への委譲である。

まず、違法伐採の問題は非常に広範囲にわたり、複雑な問題であるため、対策を立てるのは難しい。違法伐採に関わっているマフィアは国内と海外にいて彼らがそれを取引している。だから、違法伐採の対策というのは国内だけではなく、海外とも協力して行わなければならない。それに関わるすべての国が真剣に取り組まなければならない。これまでの取り組みで、成果は上がっているが、まだ十分ではない。多くの違法伐採というのは、海外でその需要があるから行われる。実際には、違法伐採材というのは、消費国がその大部分を受け取っている。だからこの対策は、国際的な協調が必要なのである。

2001年9月に行われた、東アジア閣僚会議において、バリ宣言が出されたが、それはすべての関係国がこの違法伐採対策を早急にとることが確認され、日本もこれに協力するかたちで、本日共同発表というのがインドネシアと日本両国で署名されることとなった。

私たちは、英国及び中国とも同じような合意文書を交わしている。このたび、インドネシア・日本両国で取り交わされる共同発表により、両政府が違法伐採対策を具体的な実行に移すことになる。これがいずれ国際条約のような形にまで発展していくことが、違法伐採材の生産を最大限に抑えられることになる。私たちは、この共同発表をもっと制約の強いものに引き上げていく必要があると思う。

この問題には2つのファクターがある。森林周辺にすむ住民は、雇われて違法伐採を行っていることもある。住民にとっては、生活を支えるための収入が必要であり、この問題を犯罪という観点だけから見ていては、簡単に解決はできない。もう一方で長期的な視点を持って、社会的な側面から見ていかなくてはならない。すなわち、私たちは、社会林業としてのプログラムを実施し、住民の福祉向上を目的とし、住民の生活が改善されるようにする必要がある。住民が、森林資源を共同で管理していくことが必要だと思う。

犯罪面から、違法伐採への対処は、警察、海軍、税関といった他の省庁との協力をしており、違法伐採が少しずつ減ってきていると思っている。

森林火災に関しては、これはほとんどが人的な要因によるものだと言われている。そのため、消火活動はもちろんのこと地元住民の日々の活動との関連から、住民が自分たちの自覚を高めることについても、私たちは警告を発している。

林業部門の再編に関しては、現在の木材産業というものは、森林の生産能力、持続可能な生産量に比べて非常に大きすぎると考える。そこで、軟着陸すなわち天然林からの丸太の生産量を徐々に減らしていくことで、この再編を進めていこうと考えている。これには、実際に多くの抗議が木材産業から起こっている。しかし、抵抗があってもそれをやらなければならない。林業部門の再編は、とにかく供給量と需要量のバランスを図ることである。実際には、以前には天然林から年間2,000万m3を生産していたが、徐々に引き下げて今年は680万m3、さらに2004年には570万m3に引き下げる予定である。森林を保護するために必ず実施するつもりである。また、森林伐採権を持つ企業についても再編を行っている。

森林の回復及び保全政策については、現在森林の回復、造林を大規模に行っている。また、状態の良い原生林でも保全活動を進めて、自然保護林として指定し、種の保全、生物多様性を守っていく。

多くの人が、今の林業政策があまりにもきつすぎるという抗議をしている。木材産業が縮小することによって、失業者が増えるだろうが、やらなければならない。また、一方ではもっときつく伐採の一時停止をせよという意見もあるが、私たちができるのは、少しずつ段階的に伐採量を減らしていくというソフトランディングしかない。

林業部門の地方分権化の問題は、これも非常にセンシティブなものである。スハルト政権からハビビ政権にかわったときに、あまりにも改革を急ぎすぎて混乱し、法律が守られなかった。このときに、森林破壊がいっそう進んだ。また、このとき地方分権化への移行プロセスのマネジメントがうまくできずに、たとえば県政府による小規模伐採権が乱発されて、この小規模伐採権の権限委譲があまりにも無秩序な伐採を横行させてしまった。地方への、分権委譲というのは、長期的に、段階的にしていかなくてはならない。また、地方と中央の関係機関が同じ理解を持ち、政策に責任を負うという準備ができたらその権限を地方へ委譲していくという必要がある。そのためには、地方の人材や機構の育成が必要となってくる。

岩瀬茂雄 東京南洋材製材協同組合理事長:

南洋材製材の現状は、製材量では30年前のわずか1%にまで減っている。インドネシアの原木輸出禁止という問題から、この製材量はすべてインドネシア以外の国からの原木である。また、製材で入ってくる量は全体の40%がインドネシア産出のものであるが、東京に入ってくる量も3分の1以下に減少している。

南洋材の輸入量の減少で、製品も入ってこないだろうと考えて、なるべく南洋材を設計の段階から減らそうという考えの設計事務所も多くなってきている。

違法伐採というものについては、我々南洋材を扱うものとしては違法伐採材は扱うつもりは毛頭ない。われわれは、生産国が違法伐採材の取り扱いを取り締まるとか、違法伐採材でないという公的証明書の発給などを輸出国に望んでいる。伐採され、製品化されたときには、それが違法伐採かどうかは我々にはわからない。

また、日本としても水際でチェックすべきではないかという意見もあるが、実際には輸入国側が違法・合法を判断できないので、現実的ではない。

これらの違法伐採対策をとられることによって、コストが上がれば南洋材の需要が落ちることになる。いずれにしても、南洋材業界としては、森林の持続可能な木材を伐採して、南洋材が安定的に、永続的に供給され、安心して仕事ができるよう望むものである。

近江克幸 日本合板工業組合連合会専務理事:

ここ数年をみても、わが国の基幹的な建築材料である合板、その全体の35%がインドネシアの合板である。我々生産をするものとしては、ある一定の需要量に対して安定的に供給するという役割を担っているので、特にインドネシアにおける合板産業に対する丸太の供給量について、非常に大きな関心を持っている。丸太の生産量の政策の方向性は、アプキンドとの対話の中で承知していたが、わが国での合板の安定供給ということを考えると、これらの天然林、人工林の伐採量がぜひとも安定的に推移すべきであると考える。

わが国では、適正な性能・規格を有するJAS製品の合板の供給が非常に重要であると考えるが、大臣から、このJAS格付ということについての考え方、それの実行度合い等について教えていただきたい。

また、天然林の伐採量を段階的に減らしていくというお話しがあったが、天然林の今後、当面4〜5年先での安定的な、標準的な伐採量というのはどれくらいを考えておられるのか教えていただきたい。

小浜崇宏 熱帯林行動ネットワーク(JATAN)事務局長代行:

インドネシアの森林の現状については、非常に深刻な状況になっている。こうした森林減少、森林破壊によって真っ先に影響を受けるのは、5,000万人ともいわれる森林に生活を依存した人々である。

また、インドネシア国内の国立公園の中で違法伐採が行われていないのはほとんどないのではないかと言われている。インドネシア国内だけでなく、マレーシアや中国などへの違法な木材輸出も非常に大規模に行われている。さらに、そうして違法にマレーシアに持ち込まれた木材が、マレーシア国内で合法化されて、日本を含めた最終的な消費国に輸出されていることも明らかになっている。

このたびの、共同声明及びアクションプランに関して3点提言したい。

まず、インドネシア国内においては、ぜひ地域住民による森林管理という方向に進めていっていただきたい。現実に地域住民による森林管理への参加が進められた地域においては、違法伐採は減少しているという報告も受けている。

また、日本国内では、ぜひ輸入時における規制というものを検討していただきたい。例えば貿易情報交換システムなどを新たに構築することによって、違法伐採材を判別していくといった方法が考えられる。

さらに、日本政府だけでなく、民間にも取り組みをお願いしたい。例えば、北米では多くの企業が自社の取り扱う製品の原料がどこでどのように伐採されているかといったことを突きとめて、それによって原材料の調達をしている。そういった取り組みが日本でも行われていくことを期待している。

日本では違法伐採については、生産国の問題だと考える人が多いが、違法伐採の解決のためには伐採している者への対策だけではなく、需要側への対策も必要であるといった意見がある。そういった視点に立って、今後アクションプランを進めていくことが不可欠であり、そういう方向に進むことを期待している。

小林紀之 愛媛大学客員教授:

違法伐採というのは、深く社会経済問題に根ざしており、森林分野だけでは解決が難しい。そこで、大臣も提案されていたように、ぜひ社会林業が進んでいくことを期待したい。

地方分権、富の分配がうまくいっていない、一部行き過ぎてしまったことがあるのは、事実である。その中で、キャパシティビルディングの不足をつくづく感じる。現地で私自身が、実際に適応能力がないままに地方にいろいろな権限が委譲されているのを見ている。

また、伐採量を減らしていくことは持続可能な森林経営を達成するために必要なことではあるが、一方木材産業をどうするかという問題との整合性をうまく取ってやっていかないと、違法伐採という問題が入り込む余地が生ずる。天然林からの伐採を減らし、それを補うために社会林業の手法等で植林を進めていき、再びインドネシアの木材産業が成長していくことを期待したい。インドネシアの林業は、非常にいいポジションにあり、この自然の恵みを生かした林業をやっていただきたい。

大臣は、先ほどのお話しの中で今回の共同発表を将来森林条約にもっていきたいと言われたが、この森林条約というものは92年の地球サミット以降国際的なレベルで進められているが、大国間のエゴがぶつかり合って、一向に進んでいない。そこで、とりあえずは既存の枠組み(例えばITTOの目標2000等)を活用していくのも現実的な手法だと思う。

最後に、違法伐採問題は、消費国の問題でもあり、アジア全体のグッドガバナンスの問題であり、これをどういうふうに構築していくかが大きな問題であると考える。この問題への対応が、われわれがどういうふうにアジアの環境ガバナンスに立脚したグッドガバナンスを日本、インドネシア、さらにアジア各国共同で取り組んでいくかの例示になるのではないか。

プラコサ林業大臣:

違法伐採材の貿易を防ぐために、隣国特にマレーシアと何らかの形で条約を締結する必要があると思っている。インドネシアから、マレーシアにかなりの量の違法材が流れており、この問題には、緊急に対策を講じる必要がある。ボルネオ島では、たった1週間の間に1000台の違法伐採材を載せたトラックがインドネシア‐マレーシア間を往復していることがわかっている。これは、持続可能な森林管理の大きな障害になっている。

また、輸入国側では、違法・合法の判別ができないという話があったが、共同発表の中で、合法材の判別システム、追跡システムというものを協力して開発していきたい。

小浜さんからご提言のあった、アクションについては、アクションプランの中でそれらを入れたいと思う。

 

(以降は第2部)

 

松岡利勝 衆議院議員:

違法伐採問題への取り組みの重要性の認識が、日本国内はもとより、国際社会にも正しく広がり、共有されることを期待する。

違法伐採は通常奥地で行われていることが多く、また木材を見ただけでは、それが違法に伐採されたものかどうかを判別することは困難である。違法伐採対策を進めていくためには、まず違法伐採の現状を知ることが何よりも重要であり、今後より正確な状況の把握の方法を確立するための努力が必要である。この問題への対応は、持続可能な森林経営を実現するために取り組まなければならない喫緊の課題である。

インドネシアとわが国は、これまで違法伐採対策に協力して取り組んできている。本日署名される共同発表、アクションプランは、両国間のこれまでの協力の成果であり、今後地域的な取り組みを強化していく上で核となるべきものと考える。

この問題の重要性、緊急性にかんがみ、国際機関、各国政府、NGOと一体となって問題解決に努力し、国際的な議員連盟の結成に向けて、準備しているところである。

石川竹一 ITTO事務局次長:

ITTOでは、違法伐採と違法貿易の問題を熱帯木材の国際貿易の推進と利用、そして資源ベースの持続的管理という観点から総合的政策の1つとして考えてきた。

この問題の解決のカギは、森林関連法の整備とその適切な実行とにあり、その問題は健全な森林経営によって管理されると考える。これに関連する、ITTOの熱帯天然林の持続経営のガイドラインは、森林政策、森林法令に関する原則や、政策を含んでおり、これらは違法伐採や他の森林に関する違法行為問題への解決への道を開くものとなるであろう。

ITTOの国際市場における情報調査業務は重要なものであり、違法伐採、特に林産物の報告漏れや、違法な貿易の実態を明らかにする。しかし、ITTOのメンバー国から提供されるデータの数値に大きな違いがあり、この違いは密輸や関税、税金割り当てなどを避けるための実態価格の隠蔽を示すものといえる。ITTOにおける統計情報の収集、報告の改善が必要であるので、熱帯林と木材貿易統計の訓練、ワークショップを実施している。

違法伐採問題を扱う上で重要な関連性を持ってくるのが木材産地証明である。ITTOはこの認証の段階的実施に関する研究も行っている。また、アジア森林パートナーシップのリーダーシップにも参加しており、本年7月の第2回会合にも、参加していく。

ITTOは、違法な森林行為や貿易をやめるためのITTOの行動を引き続き実施したい。そのため今後ともITTOは、各メンバー国と密接に協力して努力していきたいと考えている。

バイロン・シーゲル ザ・ネイチャー・コンサーバンシー(TNC)日本代表:

私たちは、企業、政府、あるいは現地のNGOと協力して、現地で生物多様性の保護を行っている。

昨年、TNCとWWFは、現地のNGOと手を組んで、違法伐採のアライアンスという大きな計画を立てて、違法伐採材の貿易、取引を防ぐための活動を始めたところであり、いろいろな政府や企業から支援をいただいている。

この活動は、自然保護団体の立場からいろいろなステークホルダーと手を組んで、現地で違法伐採を防ぐ計画をつくっている。今後、日本の企業、政府、の責務を明らかにするために、いろいろな活動や対策をとる必要があると考えている。

アジア森林パートナーシップには、3つのパートナー(日本政府、インドネシア政府、シビルソサエティ)があるが、そのうちのシビルソサエティとしてわれわれの団体がある。この活動には、大変大きな期待がかかっており、力を入れていきたい。

TNCとインドネシア政府との協力で、木材のトラッキングシステムを導入するプロジェクトが始まる。

また、この問題については、インドネシア・日本だけでなく、マレーシア、シンガポール等その周辺国の政府も積極的に取り組むべきだ。

最後に、国際NGOのもうひとつの役割は、透明性を確保することである。企業でも政府でもない、ある意味では客観的な立場をとる団体なので、違法伐採防止のルールを守り、統計、協力の場をつくるのに、NGOは最適である。国、企業、NGOの3つでうまくパートナーシップを組めば、違法伐採を防ぐことができるのではないかと考える。

 

(文責:(社)全国木材組合連合会 加藤)