木質バイオマスエネルギー(固形燃料主体)の現況
〜2次木質ペレット構想におけるフレッシュな賞味期限内のビジネスモデルの構築〜
0.プロローグ
木材のエネルギー利用については、歴史的に見ると、古くは薪、木炭として、昭和32年頃までは年間200万tの生産・消費量であり、当時の日本国有鉄道の車扱い貨物としても上位にランクされる輸送量があった。
しかし、その後の燃料革命により、石油・天然ガスに急速に転換され、減少を続けたことから、国産エネルギーに占める薪・木炭の供給割合は、昭和30年の10.4%から昭和53年には0.5%と縮小した。
年次 |
木 質 系 固 形 燃 料 |
薪炭材生産率 |
||
薪(万層積m3) |
木炭(万t) |
オガライト(万t) |
||
S30年 40年 50年 55年 60年 |
618.3 265.7 33.9 15.1 13.7 |
208.9 59.8 7.0 3.5 3.2 |
− S45年〔79.5〕 51.8 31.7 20.6 |
31.7 11.7 2.1 1.0
|
資料:ポケット農林水産統計(農林統計協会)、林業統計要覧(林野弘済会)
〜昭和50年代後半モデルから〜
このような状況の中で転機となったのは、第一次・第二次オイルショックを契機とした省エネ施策と併せて、石油代替エネルギーの一環として、バイオマスエネルギーが注目され、潜在的な資源量が膨大でかつ、一定の周期で再生産が可能な森林・木質系資材の燃料化がローカルエネルギーとして題材に上がった。
合板・ボード・紙パルプ工場では、木屑焚きボイラーを導入して、石油から木屑に燃料を転換したり、エネルギー多消費産業の石膏ボード工業などにおいても建築解体材の木屑燃料チップにエネルギー転換を図ったりした。
林野庁においては、木質エネルギーの活用例の委託調査を実施したり、当時の通商産業省においては、昭和56年度から「地域エネルギー開発利用モデル事業」の一環として、木質系燃料ペレットの振興を行った。このため、全国各地に個別企業をはじめ、共同事業によるペレット生産工場が建設された。
昭和59年当時の林野庁のアンケート調査などによると、木質燃料ペレット工場は21工場、検討中が10工場となっている。当時の既設21工場の生産能力(8時間/日稼動)は年間8万tキューブ(サイコロ型、30o m3)・ブリケット(豆炭型)を合せると11万tとなった。→生産能力ベースなので実際の生産量は27,700t程度。
しかし、昭和60年には、生産工場は25工場に増加したが、生産量は20,700tと前年比25.3%減と落ち込んできた。これは、原油価格の低下に加え、円高が進行したため、石油燃料との価格差が100対90にまで接近し、価格優位性が薄れてきたことに要因がある。円高の進行がさらに進めば価格優位性が逆転することが想定されるため、燃料ペレット業界では、ペレット燃料を使用することでどれだけ製品に好影響を与えるかなどを調査して、「製品影響データ」を作成、経済性以外のメリットを強調することとなった。→今回の循環型社会のシフトでも単なる経済性のみの比較でなく、クリーンなエネルギーなど相対的なメリットを勘案した方向に考えているようであるが、既に、昭和60年当時において、ビジネスとしては賞味期限が近づいていたともいえる。
その後は、周知のように、個別企業や共同事業によるペレット生産は徐々に撤退の方向で進展して、当時の生産設備が残っているのは、東北と四国の2工場のみである。
このような中で、栃木県の「今市木材開発協同組合」(全木連から推薦して、リサイクル推進協議会の「第一回リサイクル推進功労者表彰」において農林水産大臣賞を受賞)は、賞味期限切れで腐敗し、マイナスのキャッシュフローしか生まなくなった木質固形燃料事業から撤退するため、昭和63年度から新用途を共同により開発し、平成3年度から洋ラン栽培用の培地の代替材として商品名「クリプトモス」を武田園芸と提携し、販売量も順調に伸びてきている。→賞味期限が過ぎて売れなくなったため、新たなビジネスモデルをパッケージ化し、賞味期限表示を伸ばした好例。
エコエネルギーとして、ソーラー、風力などは補助や支援が前提になっており、エコノミーベースではビジネスとして成立していない面がある。民間のベンチャー企業が手がけているのも同様のことが前提にあり、ビジネスモデルとして成立するためには、さらなる既成概念の枠をはるかに超えた革新性が必要と思われる。
バイオマスエネルギーについては、著者:本多淳裕、発行:(財)省エネルギーセンター(1986年10月30日)の図書があるが、当時のRDFとペレットを比較すると、RDF(ごみ固形燃料)が構想段階であったが、その後の技術革新、支援体制の整備により、昭和63年(1988年)の北海道富良野市の「富良野市リサイクルセンター」(処理能力は7.2tと小規模)に施設が導入され、以降、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の補助や規制緩和ということもあり、現在まで、全国の自治体(一部事業団体)等で稼動、または計画しているRDF施設は約30となっている。
RDF化に対して、表向きは、@ごみの資源化、Aダイオキシン抑制、B広域ごみ収集による連続高温焼却、 等のたてまえがある中で、その裏に、@大量生産・対象消費・大量廃棄社会の維持(現在の社会システムの保全、その存在意義に対する回答の先送り)、Aごみの地方移転、B国内プラントメーカーのための市場創出(官僚の天下り先の維持確保) 等から、RDF化とは、日本企業社会の課題先送りの産物であるとの指摘もあり、プラント建設予定地における反対運動もある。→生活ごみを原料としたRDFの場合、異臭の問題や中にはダイオキシン類が高い濃度で検出されたりする例もあり、閉鎖されたプラントもある。
一方、木質燃料ペレットは前述したとおり、石油代替エネルギーの一つとして注目され、昭和50年代後半から60年当初まで全国25ヵ所以上で、製造プラントが建設されたが、その後の石油価格の低下から、需要が急減し、事業採算性が厳しくなり、見通しもなくなったことから、事業体が事業の終止符を打つのに非常に苦しみながら事業撤退を行い、現在では2地域に稼動しているのみで新設されていない。
ペレットの50年代後半モデルの事例が物語るように、一定期間の永続的な事業採算性(石油価格や他で生産されたRDFとの兼ね合い)、事業マネージメント、技術、品質性能、価格などの差別化などが極めて重要と考えられる。(コンサルなどの楽観的シナリオだけでなく、事業者=推進側の立場のみならず、地域環境負荷の視点、地域住民としての視点も決して忘れてはいけない。)
木質関係のバイオマスエネルギーについては、「木質バイオマスエネルギー技術研究組合(99年8月27日設立)」において、@木質廃材の低コスト木材乾燥、A液化、気化、ガス化、固形化による燃料化 等の実用化に向けての研究・技術開発が実施されている。同組合の事業の一環として、木屑燃料の供給→木屑焚ボイラーによる燃料及び廃熱利用→蒸気タービンによる自家発電という一連の流れをシステムとして完成させることを目的としており、平成13年3月に「バイオマスエネルギー利用技術の開発報告書」を取りまとめた。
また、林野庁では、平成13年2月「地域のために豊かなエネルギ−資源の積極的な活用を」〜 国有林野のエネルギ−資源利用検討会報告書〔検討会座長:熊崎實 氏〕を取りまとめ、国有林野の再生可能なエネルギ−として、森林バイオマス・エネルギ−資源は出番をまっており、そのためには、国有林野の市町村と連携した取組みが期待されるとしている。
木質バイオマスエネルギーは、欧米において、化石系燃料の代替としての循環可能(植えて育てることにより持続的な再生産が可能)なエネルギーの中でも注目されている。但し、欧米と我が国では環境規制等に関する法体系が異なり、例えば、「廃棄物の処理及び清掃に関する法律」、「ダイオキシン類対策特別措置法」、「大気汚染防止法」、「水質汚濁防止法」、「下水道法」、「悪臭防止法」、「騒音規制法」、「消防法」、「建築基準法」、「労働安全衛生法」などにより規制される可能性もあるので、単に設備装置や技術導入をしただけでは機能しない可能性が強い。既成概念にとらわれない、創造性のある新研究・技術開発により、生産段階でも省エネルギーなど環境負荷が少なく、製品についてもハンドリングがしやすく、高カロリーで、かつエネルギー効率の高いものの開発を期待したいところである。
第二次木質ペレット構想にしても起業機会を適切にとらえ、潜在能力の高いリサイクルベンチャー事業体を構築する上で重要なのは、アントレプレナシップであり、優れたリサイクル化の事業計画でも、起業家の力量によってはキャッシュフローを生む前に賞味期限を迎えてしまう。
明確な指針と状況変化にあわせて進化する事業体にすることが重要であると思われる。
事業化に当たっては、マーケットの魅力度(マーケット特性・規模・シェア)や優位性、戦略的差別性(技術革新、CS、流通チャンネル戦略、コストパフォーマンス)と合せて、財務的要件として、キャッシュフローを生み出すことがポイントになる。
注: キャッシュフローとは、まさしく事業の生みだした価値であり、財務構造を理解するための重要な指標の一つ。特にフリーキャッシュフロー(営業利益−営業に対する税金+減価償却費−運転資本−資本的支出(正味固定資産など):事業自体の価値や健全性、成長性、資金繰りなど、価値を生み出す力を総合的に判断する指標。)は価値そのものである。
また、リスク管理マネジメントとして、事業には当然リスクが存在するので、計画段階で、できる限り予想されるリスクを抽出し、それに対する施策を事業計画・アクションプログラムの中に織り込むことが望まれる。
そのため、「リスク」は、事業そのものが「仮説−検証のプロセス」であることから、必然的に伴うものである。つまり、事業展開を行っていく上で事前の「前提条件」が変化すると、それがリスクとして顕在化するので、前提条件が、どのように、どのくらい変化したとき、事業に与えるダメージがどの位で、その際にどう対処するかをシュミレーションしておくことが重要である。 2次ペレット化構想を成功裡に推進するためにも。
3.エピローグ
近年の木材市況の低迷と需要量の減少から、全国各地の森林経営が危機的状況の中で、十分な手入れができない状況が続いており、森林の持続的循環が果せなくなる可能性もある。地域住民にも地域環境の保全について、側面からの協力を呼びかける必要がある。
地域循環型社会システムの一環として、ペレット化構想が具体的なビジネスとして展開され、経済的にも循環し、発展していくことを願う次第である。