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「日本経済の現状と展望」〔講演要旨〕


   

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全国木材産業政治連盟時局大講演会
「日本経済の現状と展望」〔講演要旨〕

 

日時 平成15年5月9日(金)15:00〜16:30
場所 虎ノ門パストラル「鳳凰」
講師 植 草 一 秀 早稲田大学大学院公共経営研究科教授

 

  1. 日米株価の比較
  2. 日本経済の停滞が非常に深刻な状況である。小泉政権が誕生して2年を経過したが、この2年間に日経平均株価は半分になり、時価総額が170兆円以上減少している。

    日本全体ではバブル崩壊後の資産価値の減少は1,400兆円を超えており、金融資産が1,400兆円といわれているがそれに匹敵する資産価格の減少が生じている。

    米国の株価は、1990年の12月11日に2,365$で、この頃のアメリカは、今の日本と同様の深刻な不況、巨額な財政赤字、不良債権問題と3つの大きな問題を抱え、非常に厳しい状況に直面していたが、景気回復優先の政策により、株価の底入れ、景気の底入れ、地価を底入れさせ、結果として不良債権処理を進め、財政赤字を減らした。これにより3重苦の経済を見事に克服した。これが93,94,95年である。

    しかし、勢いをつけすぎ、97、98,99年の3年間に株価が2倍に上昇した。ITバブルであり、96年12月5日のニューヨークダウが6,437$から、2000年1月14日の11,722$がアメリカのバブルである。その後、2000年代に入り、3割から4割のバブルの調整が完了したところである。

    一方、日本は、日本の株価の最高値は今から13年半前の1989年の12月29日、日経株価平均38,915円で、アメリカから10年先立ってバブルとなっている。1987年11月21,100円だったものが、89年12月に39千円と2年で株価が2倍になった。これがバブルであり、90年代に入り、13.5年間、株価は下落を続け現在に至っている

    これは危険な状況で、銀行の株価がそれを象徴しているが、一般的に言うとのんびりしている。ペイオフが延期されたことにより、預金が全額保護されるので、銀行がつぶれても心配しないということがある。

     

  3. 立ちはだかる経済問題
  4. 日本が直面している問題は、90年代前半のアメリカの状況と似ている。一般的には、深刻な不況、特に中小企業や国内型の産業が厳しい。不況以外に二つの問題がある。

    その一つが財政赤字であり、国と地方を合わせた借金の合計は700兆円、日本のGDPが500兆円であるので、140%のGDP比率というのは、主要国の中で日本が最悪であり、そのため日本の国債の格付けが下がっているという問題が生じている。

    もう一つの問題は不良債権問題、90年代後半の深刻な不況が長引いていることである。不良債権の処理を今やろうとすると80兆円位のお金が必要になる。

    このように不況、財政赤字、不良債権の三つの問題が行く手を阻んでいるが、どうやって乗り越えるかということについて、二つの正反対の意見がある。小泉首相が提案しているのは、改革路線、改革なくして成長なしといわれているが、できるのかどうかわからない

    改革路線をやるためには、綿密な計画、周到な準備、適切な時期、優れたリーダー、チームワークで、この5つの条件が整っていなければならないが、今は残念ながらこの条件が一つも整っていない

    これに対して、不況を克服するため景気回復に全力をあげる。不況をしっかり克服すれば、財政の建て直しや不良債権の処理がスムースに進めることができるのではないか。どのルートで進めるか意見対立がずーと続いている。

     

  5. 小泉政権下の24ヶ月
  6. 小泉政権が発足してから2年間の株価であるが、よりよい明日を目指す米百票の方針で、2年間、一貫してそれを貫いたかというとそうではない。緊縮財政と企業に対しては、退出すべき企業は市場から退出させる。その結果、株価がストンと下がり、1万円割れ、景気も急激に悪化した。

    そういう状況になると、「柔軟かつ大胆に変える」ということで、個別の企業の救済はしないといっていたのを危ないといわれていた数十社が軒並債権放棄という形で処理が進んだ。

    2002年前半、2度補正予算を組み、株価は11,979円まで上昇し、政府は景気底入れ宣言を発表した。政策を変えたらよい流れがでてきた。ところが2002年6月に政府がデフレ対策第2弾で一転して緊縮政策に変わった。中小企業にも増税する外形標準課税の導入検討、健康保険法の改正で医療費の本人負担2割負担を3割負担、年金給付の減らすという話が軒並出てきた。

    2002年秋には、大銀行をつぶすという話が出てきて、あっという間に株価が9千円を割り込み、「柔軟かつ大胆に変える」ということで、政策が変わり、補正予算を5兆円の国債発行する形で打ち出した。10月30日には大銀行はつぶさないという方針に変わった。

    ここで景気回復に取り組んでいれば今頃は事態が変わっていたが、残念ながら2003年に入って、国債5兆円を発行したので、国債発行額が昨年度35兆円になり、株価も下落を続けている。

     

  7. 日本経済の現状
  8.  日本で製造業の割合は、経済全体の2割で、8割がものづくり以外の非製造業である。

     製造業は全体の五分の一であるが、製造業の動きと経済全体の動きはほぼ連動しているので、経済全体の動きを見る上で役立つ日本の景気は2002年の8月から現在、下り坂に入っており、景気は再び後退局面になっている。

    98、99年の数字と同じレベルで、その頃は、長銀や日債銀が倒産したりして、日本が深刻な不況に突入していた時期で、今の経済活動はその頃と同じである。しかも下り坂である。

    2000年の8月が景気のピーク、そして、2001年の11月が景気のどん底、15ヶ月で16%落ち、最悪の景気の落ち込んだ。落ち込みの一番の理由は、森政権と小泉政権が強烈なブレーキを踏んだ。超緊縮政策で、それに特殊な意味が加わった、2001年9月のテロ、ITバルブ崩壊が重なった。2002年はその反動があったが、ブレーキを踏んでしまった。

    90年から現在までに日本の景気はどんな波動を描いてきたか。失われた90年代などといわれるが、94年から97年に掛けて、99年から2000年にかけても景気ははっきり浮上している。何があったかというと、いずれも景気対策で浮上した。

    逆に落ち込んだのは、3回あり、91年から94年はバブル崩壊、97〜99年の橋本政権の史上空前の増税、2000年〜2003年の森政権と小泉政権の強烈なブレーキを踏んだこと

    戦後の日本経済を時系列的に調べて見ると、稼働率が95まで落ちてきた時が不況で、現在は日本経済全体で90〜93であり、今の日本は戦後で一番厳しい不況である。

    100のうち、90が動いているので90の人に聞くと景気はよくないけどそこそこということになる。

    日本経済のうち8割の産業は内需型の産業であり、このような業種に属している会社は日本経済が浮上しない限り、自ら浮上させることは極まれである。

     

  9. 90年代の政策対応と経済変動
  10. 90年代に株価が急落したのは4度あり、株価急落のときに本格的な景気てこ入れ策をして、株価の猛烈な反発が乗じている。1度目が7千円、2度目が5千円、3度目と4度目が8千円という株価上昇が生じている。

    危機にしっかりした景気てこ入れ策を打つと株が上がり、景気がよくなる。財政赤字が大きいということは事実であるが、やっと軌道に乗ったところで、先を急ぎすぎ、96年のように政策が行き過ぎた逆噴射のブレーキを踏み込みすぎると折角浮上した景気が悪化する。

     

  11. 日本経済15年の軌跡
  12. 日本のGDPは 87年〜90年の4年間の年平均の日本の経済成長率は5.4%(バブル景気)であった。これが、92年〜95年はガクット下がり、平均値で1.0%(バブル崩壊不況)である。

    重要なのは95年で、経済指標の数字がプラスになり、バルブ崩壊に伴ういろいろな調整が95年に終了した。96年には3.4%の経済成長を実現している。それも個人消費や設備投資が主役で理想の景気回復であった。それを写して、株価は22,000円まで上がった

    この流れを大切にしていればよかったのであるが、橋本政権が登場し、財政赤字を減らさなければならないということで、13兆円の強烈なブレーキを踏み、経済成長はマイナス2%、株価は12,000円まで下落し、拓銀、山一證券等が破綻。

    そこで小渕政権が景気対策を優先し、日本の成長率は98年から2000年にかけてうなぎのぼりに上昇し、マイナスから2.8%に、株価も2万円を突破し、日本経済を危機のふちから救い出し見事に浮上させた。

    2000年から2003年は、橋本政権以上の緊縮財政をやった結果、株価の暴落、不況となった。80年代後半がバブル景気、90年前半がバブル崩壊不況、96年以降の不況は2度あり、これは政策不況である。

     

  13. 小泉政権2カ年間の評定
  14. 小泉首相の唱える改革の精神はよいが、問題は経済運営のやりかたであり、経済運営は明らかに失敗してきた。小泉政権のキャッチフレーズは、「改革なくして成長なし」ということで、改革を優先しようということと、その間しばらくは不況が続くという意味を持っているが、不況が続くということは、実現しているが、改革は進展せず、7つの公約も破られた。

     

  15. 「政策転換」無くして「日本再生」無し
  16. このような現状を踏まえると、「政策転換なくして日本再生なし」ということが断言できる。

    株価と政策に対し、景気は半年から1年くらい遅れて連動する。2000年からは少しずれているが、テロとITバルブの調整とその反動があった。現在の状況であるが、小泉政権の政策は、緊縮路線で株価は下落、景気は半年後追いなので、今年は、年末頃までは景気が下り坂というのはほぼ確定的である。

    経済政策は、大きく分けて、「陰の政策」と「陽の政策」がある。陰の政策は見栄えがよいが、問題は国民全体が不幸になる。陽の政策は陽の政策の流れを作る。政策は、見栄えよりも国民を幸福にすることが判定基準になる。

     

  17. 救国緊急総合経済政策の提唱
  18. 具体的にどういうことがあればよいのかというと、私は「救国緊急総合経済政策」を提唱している。骨子は5項目である。

    1. 政策路線を変える。「景気回復優先」を明確に宣言すること。
    2. 真水5兆円の内需支援政策をしっかりした言葉で打ち出せば充分であり、90年代のアメリカの回復のプロセスのように流れの大転換が生じる。陽の流れがいろいろな問題を解きほぐしてくる。
    3. 個人消費や設備投資、住宅投資といった民間の需要が中心となった2〜3%の経済成長の軌道を如何に作るかしっかりした対策を打ったら翌年には相当な効果が出て来る。逆噴射しないことも重要である。
    4. 財政の健全性重視緊縮政策は決して財政赤字を減らしていない。緊縮政策を進めると景気が壊れると税収が減り、赤字は増える。10年でしっかり財政を立て直すための明確なプランを出し、これと、悪い流れを断ち切る景気対策をセットで出す。景気対策を推進することで財政再建が促される
    5. 金融政策は変なことをやらないことが重要。変化ことをやる動きが水面下にある。

     

  19. 財政政策―求められる財政健全化総合戦略
  20. 財政赤字を増やす政策を積極財政財政赤字を減らす政策を緊縮財政というが、財政赤字を減らそうとしてブレーキを踏み込んだら景気がぼろぼろになってしまい赤字が増えてしまう。小泉政権の緊縮政策も赤字を減らしているのではなく、赤字を増やしていることになる。

     私は、本当の財政再建を目指すべきであると主張している。それには3本の柱がある。

     「景気回復無くして財政健全化なし」である。現在、不況を促進していることが赤字拡大の最大の要因である。 本当に赤字を減らそうとするならば、景気を盛り上げることが大切である。

    2つ目は、日本の社会保障の財政は今のままいったら完全に破綻するので、消費税の引き上げは避けて通れない。景気がしっかり軌道に乗った後で1年当たり1%を限度に上げ、最終的には15%位にする。そうすれば財政再建は可能である。

    3番目に、そのうよう国民の負担の増加を求めるためには、官の部分の無駄を取り除くこと、地方公共団体の統合や天下りの廃止などをしっかり打ち出していく

    公共事業はやるが、無駄な公共事業をやめる不況が深刻な時は、金利が安くて、工事代金も安い時でもあるので、不況が深刻な時に必要な公共事業を実施すれば安上がりでできる。それ以外に減税や出産育児の支援なども重要である。

     

  21. 節度ある金融政策の維持
  22. 金融政策はインフレ率1〜3%位を目指す目標を設定してもよいと思う。問題はやり方で、ノーマルなやり方でやるかアブノーマルなやり方でやるかが分かれる。現在、ゼロ金利とか量的な緩和をやっているので伝統的な金融政策ではできない。

    その時は、財政政策等により景気を先ずよくする。そうすると資金需要がでてきて、マネーサプライが増えるので、こういうやり方を目指すべきである。

     

  23. 国益を損なう政策に厳重な警戒が必要
  24. 今の日本の政策であるが、不況はほっておいて会社をどんどん潰す。こういうのを改革と呼んでいる。

    これを一番喜んでいるのはアメリカで、不良債権処理ビジネスで儲けが出る。ハゲタカファンドは日本の銀行がつぶれて、国民の税金できれいに債務処理が終わった銀行を10億、20億円で買い取り、その銀行を再上場させて、2〜3年で売ったら数千億円の利益が入る。

     

  25. 不良債権問題への対応
  26.  基本的な考え方は、経済全体をしっかり改善させながら、ルールにのっとり不良債権の処理を行う。今の政策で一番問題なのは、経済全体を悪化させながらルールを不明確にして処理をするという形になっていることが問題である。大切なことは経済全体を改善させていかないとつぶれなくてもいい会社がつぶれていく。

     

  27. 企業戦略
  28. リエンジニアリングであり、ITをうまく使い仕事のやり方を見直してコストを落とす。日本で作るとしたら日本でなければできない優れものに限定する。明確な戦略というものが大事になる。

     三つ目は、目の付け所として、よいものをよりやすく。よいものを安く作る業者がいればお客さんは全部そこに流れる。必ず、市場では一物一価である。その時問題は、自分の会社もその値段で売らざるを得ないので、自分の会社が利益が出るか。結局、「売値−費用=利益」であるので、コスト構成の競争である。

     もう一つは、高額なブランド品を買っている人は沢山いるが、何を買っているかというと、心の満足を買っている。人々がお金を注ぐ対称が「心」とか「体」とか「自然」などに変わってきている。これをうまく捕らえると非常にうまみのある仕事が開けてくる。

     

  29. 2003年の展望 −歴史に学ばぬ者は歴史を繰り返すー

    これからの見通しであるが、96年から98年の日本の株価の動きと、2001年〜2003年の株価の動きはそっくりで、共通点が沢山ある。構造改革パート1とパート2である。

    橋本政権は98年にかなり行き詰まったが、政策を変えずに株が下がり、退陣に追い込まれた。小泉政権も政策を変える必要があり、今年は政策転換の年になると思う。その転換によって陰きわまれば陽に転ずる。大きな流れの転換が生じ、その点をしっかりやれば、来年は予想以上の浮上ということもありうる。

     国民が賢明な判断をして、できるだけ早く政策を変えて日本が再生することを期待したい。

 

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